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氷雪の陣
介入4





「提督。ヘルヴェルト艦隊が後退して行きます」
 HEAVEN側パワードスーツの攻撃に押され、撤退してゆくヘルヴェルト艦隊は、ジェイル駐留基地を離れ惑星の裏側へと退避。ジェイル大気圏に突入して基地へ向かうギャラクシア艦隊は、その動向を確認していた。
 基地奪回に成功したという報告を得ていた提督杉崎は、基地の体制を立て直すためにジェイル駐留全軍の集結を命じた。
「戦闘機隊はただちに帰艦。これより艦隊はスノウホワイトに向かう。各護衛艦はそのまま基地上空に待機。哨戒に当たれ」
 ギャラクシア艦隊は艦隊戦に突入する事なく、駐留基地へと入港していった。



 駐留基地の港に帰港してきた哨戒艦艦隊を司令室で迎えていた一条は、続いて誘導したギャラクシア艦隊を迎えるべく港に面したロビーにやってきた。
 ガラス張りの壁面の向こうに港を見渡せるそこで、待機していた次郎の横に立つ。共に港に到着したギャラクシアを見守っていると、開いたハッチの向こうから杉崎が現れた。
「お杉……?」
 フェニックスとギャラクシアと。一体どういう混成チームなのか。
 一条は驚いて目を見開く。
 地表のゲートは破壊されていたため、港には冷たい風と雪が渦巻いて、タラップを伝ってデッキに降り立つ乗組員たちを冷たい現実で迎えた。
「うぅぅ〜〜寒ぃ!……まったく、ひどいトコだな」
 ユニフォームだけで外を歩いて来た杉崎は、両腕で身体を抱きしめながら背中を丸めてロビーに入って来た。
 肩に積もる雪を手で払いながらやって来る。援軍の司令官にしては情けない登場だった。
「――よお。元気そうじゃないか」
 拳で一条の胸を小突いてくる杉崎は、別れてから一週間程しか経っていないような、変わらない姿と態度で再会の挨拶をしてくる。
「……ったく、心配させやがって」
 そして、ギュッと抱きついて再会を喜ぶ。
 一条はそんな予想外な杉崎の行動に、魂を抜かれたような反応を示して驚いていた。
 今までの杉崎からは、そんな事など一度もされたことなどない。
 しかし、杉崎に他意はなかった。
 市ケ谷を失った一条の傷心が分かるから、なんとなくそういう行動に出ただけの事で。ただ、確かにそれまでの杉崎なら、相手を包容する気持ちがあっても行動に移せなかったのは事実だ。
 臆面もなく想いを形にする。そんな事が自然にできるのは、これまでの経験によるものだ。
「ご苦労だったな。次郎」
 そしてまた、何事もなかったように、一条の傍に立っていた次郎を見て作戦の労をねぎらう。
「ニィちゃんの胸で泣くか?」
 邪心でいっぱいの笑顔を次郎に向けて、杉崎は武蔵坊との結論をからかう。
「いらねーや。……だれがホモの胸で泣くか」
 悪態をつく次郎。それに対して鷹揚に笑い飛ばす杉崎。
 立川とのでっち上げの艶聞に過剰反応していた杉崎はどこに行ったのか。一条は驚いたまま微動だにできなかった。
「じゃあな。俺はギャラクシアで待機している」
 ギャラクシアの艦内へ帰るため外に向かった次郎は、ロビーのドアの前で見るからにヨレヨレに疲れ切った陽本とすれ違った。
 精も根も尽き果てた帰還兵。そんな陽本には同情を禁じ得ない。
 次郎は陽本の姿を目で追った。
「大丈夫か……おい」
 案ずる次郎の声も耳に届かず、陽本は一条しか目に入らない様子でヨタヨタと歩いて行く。それまで、杉崎の変わり様に驚かされていただけの一条は、そんな陽本を見るなり少しだけ嬉しそうに表情を緩めてから、また心配そうに表情を硬くした。
 そしてその傍で、一条の表情の変化を見逃さなかった杉崎がいた。
「こ、の……」
 やっとたどりついた陽本は、一条の襟元をつかんで薮睨みの目で迫っていった。
「俺を、何だと…思っ……」
 言いたい苦情は山程あったが、彼はそのまま過労のため意識を失った。
 力尽きて一条の胸に崩れるように倒れる陽本の身体は、そのまま一条に抱きとめられた。
 一条の腕に抱かれて、陽本は安らかに寝息をたてていた。
 一条に酷使された不憫な部下。次郎にはそう見えて、肩をすくめてからロビーを出て行く。
 杉崎はニヤリと笑って、死んだように眠る陽本の両膝をすくい上げて抱き抱えた一条に蠱惑的な視線を送る。
「お前が部下を可愛がるなんて珍しいじゃないか。……弁慶が妬くぞ」
 揺さぶりをかける杉崎の言葉で、不覚にも一条の顔が赤くなる。
 杉崎は思わぬ本意に意識を引かれた。




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