氷雪の陣 介入1 5.介入 ジェイルの雪原に佇むガーディアンのコックピットで、ひとつしかないシートに肌を寄せ合ってぬくもりを確かめ合うふたりは、窮屈な環境も気にならないほど互いの存在に夢中になっていた。 「隼人艦長……」 甘える声が、何度もその存在を確かめる。 一条はそれに応えるように、くちづけで陽本の不安を慰めていた。 「どないしたん」 潤んだまぶたにキスと甘い囁きを贈られて、陽本の切ない感情が抑えようもなくあふれてくる。 「ここにおる。安心せぇ」 囁きとともに抱きしめられて、背中をさするように撫でられて、陽本は泣きたくなるほどの胸の疼きを覚えた。 一条に対する市ケ谷の想いを知っていた。 市ヶ谷が焦がれ続けて、求めて止まなかった一条を、市ケ谷を愛していたはずの自分が、独り占めしている罪悪感。 背徳の甘い蜜が、陽本を誘惑する。 彼は、こんなふうに市ケ谷を抱いていたのだろうか。そんな不埒な事を考えながら、乾きかけた頬の傷口を舐めて一条を誘う。錆のような苦い血の味で、基地での戦いの激しさを知った。 「……ええのんか」 痺れるような快感を与えてきた唇が、今更ながら確かめる。 耳元で囁く一条の熱い吐息が、陽本の皮膚を愛撫した。 「――早く」 身震いするような快楽を、自分で戒める術は持ち合わせてはいない。 陽本は情に導かれるままにキスをねだった。 胸元から下腹まではだけたパイロットスーツに、一条が指を滑り込ませる。 指先で反応を確かめるようにそっと愛撫されて、痛みを覚えるほどに張り詰める。 熱く拍動する欲望の象徴は、しっとりと汗と愛液をまとって触れる指先に馴染んできた。 愉悦に酔わされて震える吐息が、縋るように唇に絡んでくる。 上気した表情は、初めて逢ったときとは別人のようで。もどかしそうに導く陽本の指が、自ら柔らげた身体に一条を誘い込む。 先端のくびれまで呑み込むと、包み込む熱い身体の中で、一条がさらに大きく変化した。 「あ…っ!」 熱い拍動に押し広げられるような体感に思わず声が漏れる。 貫かれた身体は、支えを求めて一条の胸に抱きついた。 それに応えるように身体を抱きしめられて、隙間なく合わせられた身体は、溶け合うような熱い体温を伝えた。 ゆっくりと刺激を与え合う身体の動きが、互いを興奮させて昂め合う。 求める心が、行為を交歓へと変容させてゆく。 不意に、一条の指が陽本の髪を束ねていた金具を外して髪を解いた。 首筋を翠がかった黒髪が覆う。サラサラと指に絡む髪を両手でかきあげて、一条は陽本の唇を求めた。 キスまでがふたりを隙間なく繋いで、熱い体温に安心を覚える。 失った者を悼む悲しみがあった。 生きている事さえ罪に思えた夜もあった。 それでも自分たちは生きるために足掻いてきた。 市ケ谷を失った孤独に溺れてしまいそうな、そんな弱さをはねかえす強さを互いに与え合ってきた。 確かめ合う体温に、優しさと免罪を求めて、生きることの意味を考える。 こうなることが運命だと錯覚してしまいそうなほど、互いの存在は互いを慰めて情を重ね合っていた。 その善悪など分からない。 ただ、今ここに互いが生きて存在している。 それが、全ての答えのように思えた。 「隼人……」 喘ぎながら、吐息が震える。 痺れるほどの悦びに、陽本の全身が熱い終わりを予感させる。 それはまるで、市ケ谷の声にも似ていて一条を惑わせた。 [次へ#] [戻る] |