氷雪の陣 奪回10 ギャラクシアから出撃した次郎は、駐留基地の上空で次々と離陸して行く艦隊を見送りながら、武蔵坊のリーンフォースを探していた。 ギャラクシアのブリッヂを中継してコンタクトを取る。 やがて、フリュ―ゲルと交戦するリーンフォースの識別信号を捕らえて、次郎はそれが武蔵坊である事を確認した。 フリュ―ゲルの反応速度は速い。武蔵坊の能力に追いつけないリーンフォースの機体は、彼の力を最大限に発揮する事が出来ないでいた。 「下がれ弁慶!!」 突然耳に届いた声。それは、聞き覚えのある生意気な声だった。 「二番目……?」 ビームサーベルを交わしていたフリュ―ゲルから離れる。すると、フリュ―ゲルの機体は、高速で接近して来たウィザードの、高エネルギーを放つセイバーに引き裂かれて大破した。 武蔵坊は茫然とその様子を見つめていた。 「おまえが……どうして」 援軍はフェニックス戦闘機隊のはずだった。 ギャラクシアの艦長である次郎の出撃など考えられない。 「――杉崎提督の指示だ。あんたにこのウィザードを届けろと命じられた。受け取れ」 接近してきた漆黒の機体は初めて見る。 ふたたび襲ってくるフリュ―ゲルを、ウィザードは機銃でなぎ払った。その反応速度はフリュ―ゲルの比ではない。 相変わらず偉そうで生意気なこの恋敵の、高飛車で無愛想な物言いは気に食わないが、その存在は悔しいほど頼もしい。 上昇を始めた機体はアームで固定しあってコックピットを接近させた。ウィザードのハッチが開いてパイロットが姿を現すとともに、武蔵坊もまたハッチを開けてコックピットから乗り出した。 互いに機体を交換するために、コックピットにワイヤーを張ってから、ワイヤーを伝ってハッチに守られた連結路を進む。 自動操縦で上昇飛行を続ける機体の上で、強風に飛ばされそうになりながら吹雪の中を移動する。そして、互いのコックピットに落ち着くと、ふたたびハッチを閉じた。 「操縦系統はあまり変わりない。ただ、パワーがケタ外れにデカイ。振り回されんなよ」 接触回線で伝わってくる次郎が注意を促して来た。 「――痛み入るよ。わたしのための機体というわけか」 武蔵坊はほくそ笑んだ。 「あんたもたいがい自信家だな。いいさ、そういうコトにしておこう」 機内のシグナルが、追ってきた敵の接近を知らせる。 ふたつの機体は瞬時に離れて迎撃態勢に入った。 「わざわざ俺が運んだ機体だ。大切に扱えよ」 通信回線から次郎が念を押して来た。 まったくもっていちいち生意気だ。 さすがの武蔵坊も快くは思わない。 「おまえは、本当に口の利き方を知らん奴だな」 「うるせぇ間男」 次郎の逆襲に面食らって、武蔵坊は唖然とした。 戦場にありながら、全く関連のないやり取りをするふたりだったが、周囲の敵はそんな事情など構わずに攻撃を仕掛けてくる。 次郎のリーンフォースは、迫りくるゲオルクをビームサーベルで迎撃した。 「――もうひとつ、おれが運んで来てやったもの。あんたにくれてやる」 何事もなかったかのように続く次郎の言葉に、武蔵坊は息を呑む。 「この戦場のどこかにいる。……大切にしろよ」 そう告げると、リーンフォースはウィザードから去ってゆく。 武蔵坊はその機体を思わず引きとめた。 「杉崎!?」 リーンフォースは止まることなくパワードスーツ戦の前線へと向かう。 「おまえはそれでいいのか」 「……あいつがあんたを選んだ。俺には、何も許しちゃくれなかったよ」 そんな白々しい嘘をいまさら信じられるものか。 武蔵坊は呆れた。 だが、もしかしたら『熱血直情バカ』のあいつのことだ。バカ正直に正義感を貫いて、下手な手出しが出来なかったのかもしれないとも思わせられる。 「そういう事にしておくか……」 武蔵坊は、温かく満たされた感情に相好を崩した。 去って行く次郎の傷心を思うと胸が痛む。 しかし、その次郎の想いを受け取って、武蔵坊は前を向いた。 「ひとつ……宝探しといくか」 ずっとそばに欲しかったものが、この戦場のどこかで戦っている。 武蔵坊は、喜色を浮かべ満悦な表情が隠せない。 漆黒のウィザードの機体は、吹雪の中をたった一機のエルフを求めて戦場の中心へと向かった。 4.奪回 ――終―― [*前へ] [戻る] |