[通常モード] [URL送信]

氷雪の陣
奪回4





 基地に警報が鳴り響いた。
 赤いシグナルの点滅が、敵襲を知らせる。
「始まったか」
 通気口から覗く通路を、大勢のヘルヴェルト兵が港に向かって走って行く。
 けたたましい警報が自分たちを包んで、気配をかき消してくれるのはありがたい。
 狭いエアダクトの中を前進してきた一条は、窮屈で慣れない匍匐前進に多少の苛立ちを覚えていたため、ここで一気に攻め込んで行ける事に開放感を覚えた。
 陽本が攻撃を開始した事を確信する。
 後は基地の機能を取り戻すだけだ。
 一条は彼等を振り返って前方を指した。
 部隊の一部を作業長に任せて、司令室の手前で二手に分かれる。一条はそのまま司令室内部までダクトを進み、司令室の二重天井の裏にたどり着いた。
 エアダクトの壁を焼き切ってそっと降り立つ。ケーブルと配管が交錯する狭い空間は、司令室全体を覆うように展開している。そこから作業用の出入り口を確認して司令室へと向かった。
 出入り口の鍵は電気屋の働きで既に無効になっている。手動に切り替えてそっと開けて中を伺った。室内を見渡すと、味方のオペレーターは存在しないことが確認できた。
 たった1機の襲撃でも、システムに慣れないオペレーターには結構なダメージになるようだ。
 角度を変えてフロントスクリーンを覗いてみる。そこには陽本のガイアスが投影されていた。
 一条はすぐに、ひとりの部下とともに、ドアの隙間から匍匐姿勢で敵兵への狙撃を開始する。
 司令室に立て続けに銃声が響いた。
 兵たちが次々と斃れるなか、敵のひとりが狙撃に気づいて叫んだ。彼はそのまま狙撃されて斃れたが、発見された一条らは反撃を受け始めた。
「――もうちょいやったのに」
 一条は舌打ちをして、ドアから離れた。
「作業長。連中の意識はこっちにある。突入してなぎ払え。だが、くれぐれもシステムだけは傷つけるな」
 インカムを通じて司令室の外を占拠していた作業長に指示する。
「無理な注文だ……」
 作業長は苦笑した。
「よし、突入するぞ」
 作業長がライフルを構えて、兵や部下たちを率いて司令室に突入した。
 突然の新手に司令室は混乱する。
 正確な作業長の攻撃がドアから覗く一条の眼にとまった。
 やはりプロだ。一条はそう直感する。
 そして、その混乱に乗じて、部下たちとともに司令室になだれこんだ。
 一条の援護を受けながら、端末にたどり着いた電気屋がセキュリティシステムを再プログラムする。
 続いて、全モニターを駆使して、人質となっているオペレーターたちの所在を検索し、味方に情報を流した。
「二階の……どこだ、こりゃ」
 ディスプレイに表示されてくる見取り図を見て、救出隊との位置を確認するが、適切な指示が出せない。
「居住ブロックだ。東棟の奥」
 ディスプレイを見て指示した一条は、その一瞬の隙を狙われて左腕に被弾した。
「艦長っ!?」
 電気屋は驚いて一条を振り返った。




[*前へ][次へ#]
[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!