氷雪の陣 艦隊4 「しかし、何があっても最強の名を返上するつもりはない。我々は必ず作戦を遂行し、哨戒艦艦隊と共にHEAVENへ帰還する」 参謀の強い信念が伝わって、艦隊指揮官たちの士気が上がる。 彼らの決意の表情が立川の迷いを払拭した。 橘は、この作戦が自分の予測とほぼ一致していた事に満足していた。だが、補給船を同行させて艦の機動を継続させる事までは考えが及ばなかった。なるほど……と思う。 ――この作戦が現実のものになる。 そう考えたとき、橘は一抹の不安を抱いた。 実戦はチェスではない。生きた人間がコマである以上、やり切れない感情がつきまとう。 先鋒は誰か。皆、そこに集中し始めた。 立川には言い出せなかった。送り込んだとしても、生還できるとは限らない任務には、誰も就かせたくはない。 本当は自分が切り込み隊長を買って出たい立川だったが、今はもうそんな事が可能な立場ではない。 立川はそれが悔しかった。 やがて、それまで黙って立川に任せていた杉崎が重い口を開いた。 「――先鋒はギャラクシア」 全員の驚いた視線が、ギャラクシア艦長杉崎次郎に集中した。 「OK」 次郎は予感していたように、視線をデスクに落としたまま、口元を微笑みで緩ませた。 哨戒艦遮那王の訃報を聞いて、一番悲しんだのは遮那王の前副長である次郎だった。 艦長一条の戦死は、報復に燃える次郎の士気を高め、生き残った武蔵坊以下乗組員を救出するために、誰よりも先にジェイルに到着したいと望んでいた。 そんな次郎にとっては、与えられた役割は有り難かった。 「続いてアレス」 杉崎が告げる。 デスクの下にあった橘の手が、触れた西奈の手を強く握りしめた。 別れて戦わなければならない不安が、握る手に込められる。 西奈はその手をそっと握り返した。 「最終はフェニックス。各護衛艦はそれぞれと行動を共にするが。……フェニックス護衛艦隊第一艦隊シグルス」 「はい」 護衛艦隊旗艦艦長が応える。 「輸送艦隊としての任を与える。ギャラクシア艦隊に同行しろ」 「光栄であります」 護衛艦艦長は、心からそう信じているかのように、その大役を栄誉として受け入れた。 杉崎はその剛の精神に敬意を払う。 彼らは古参の強者だ。きっとギャラクシアを護ってくれるだろう。 自分の願いは確かに艦長に伝わったと感じて杉崎は安心した。 そして、ひと呼吸おいてからもうひとつの決断を皆に伝えた。 「――先陣の指揮は俺が執る」 指揮官たちは途端にざわめく。 提督自らが先鋒の指揮を執るとは思いもよらない事だった。 「フェニックス各戦闘機隊は、ギャラクシアに同行。輸送戦艦にはエネルギーカートリッジとバッテリーパックを可能な限り積載し二十分後に作戦を開始する。ギャラクシア艦隊は直ちに準備に取り掛かれ。……以上だ」 杉崎の命令が下され、立川の起立とともに、全員が一斉に起立して杉崎に了解の意を表する敬礼を向けた。 ゆっくりと立ち上がった杉崎は、敬礼を返して作戦に同意する指揮官たちに敬意を表した。 [*前へ][次へ#] [戻る] |