氷雪の陣 HEAVEN防衛軍哨戒艦艦隊9 「それでは、作業長」 「ああ。達者でな」 ふたりは固く抱擁を交わして、別れを告げた。 「梵天と、すべての魂を、よろしくお願いします」 「任せておけ」 抱擁を交わすふたりを物欲しそうに見つめていた『電気屋』。 そんな彼の様子に気付いて、一条はその身体を抱き締めて別れを告げた。 「世話になったな。元気で頑張れよ」 広い胸に抱きしめられ、ポンポンと背中を叩かれて、彼は泣きたくなるほどの感情の昂まりを覚えた。 「……俺、ここを出たら軍に入隊する。遮那王に乗せて欲しい」 一条は笑って彼を離した。 「遮那王は男の 「俺は哨戒艦がいい。艦長の傍で働きたいんです!」 「酔狂な野郎だな……」 穏やかな微笑みを向けられて『電気屋』は陶然としてその笑顔を仰ぎ見た。 「待っているぞ。『電気屋』」 一条は彼等に別れを告げて去って行く。 その後ろ姿に『電気屋』は叫んだ。 「俺の名はラーファエル。ラーファエル・ユヴァだ。覚えておいてくれ」 「ああ、いい名だな。忘れないぞ、ラーファエル」 共に戦った盟友。それを忘れられるわけがない。 見送る『電気屋』の万感の想いを残して一条は去って行った。 広い肩と均整のとれた長い手足。背の高い、包容力を思わせる後ろ姿。『電気屋』はその頼もしい姿を目に焼き付ける。 「艦長……」 「恋におちたか?『電気屋』」 穏やかに笑う作業長の表情は彼の感情を暖かく見守っていた。 「だが、彼には大切な何かがあったようだ。残念ながら片想いだな」 「分かってますよ。あのパイロットといい仲だって事くらい……俺にだってわかる」 戦場で見せた陽本への想い。彼等はそれに気付いていた。 互いの期待に応えようとする在り方が、その絆の強さを見せつけた。 「だけど、こんな俺を信頼して、命懸けで守ってくれたんだ。俺はあのひとの元で働きたい……」 「――おまえも可愛い野郎だな」 作業長は乱暴に『電気屋』の頭を撫でた。 久しぶりに ほんの少しの感傷を残して、彼等は一条に別れを告げた。 [*前へ][次へ#] [戻る] |