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僕の痛みを君は知らない
6





 一体、なにがどうなってこんなトコで襲撃されなければならないんだ?
「貴史」
 彼は既に服を着ていて、おれの頬を軽く叩いて現実に連れ戻した。
「早く着ろ。ここの壁もそう持たないだろう」
 機銃の掃射はまだ続いている。
 浴室の壁がひび割れ始めて、細かい破片がパラパラと床に落ちる。
「なんとか脱出したいが、外にもいるだろうな……」
 おれに話しかけているようではない。何かを思案しながら独り言をつぶやいている。
 壁が大きく崩れ始めた。
 もう、だめじゃないのか?
 そう思ったとき、彼は表情を和らげておれの頭を撫でてきた。
「大丈夫。貴史を死なせたりしないよ。おぼこの霊は成仏できないらしいからなぁ」
 おれは情けない顔ををしていたんだろうな。彼はそう言って微笑んだ。
「こんなときになに言って……」
 今はそんな冗談に、いちいち突っ込みを入れる余裕なんてない。
「俺も、貴史のバージンをいただくまでは、死ぬに死ねないからな」
「じゃあなんとかしてよ。おれだって死にたくないよ」
 もう、訳が分からなくて泣けてくる。
 すると、彼は携帯を取り出して発信した。
 おれは急いで仕度をして、脱出の体勢に入った。
 相変わらず銃声は止まない。
「――ああ、篤士。非常事態だ。場所はウェリントンホテル最上階。外にヘリがいる。それをなんとかしてくれ」
 土井垣?
 なんであいつに救援なんか頼むんだ。
「……なんでもいい。もう持ちそうもないんだ。急行してくれ」
「ど……して。土井垣」
 通話を終えた携帯をポケットにしまう彼に、つい訊いてしまった。こういうときは、警察の出番じゃないのか?
「それがあいつの役目だからだ」
 不敵に笑う彼のこの余裕は、一体どこからくるのだろう。
 それだけ土井垣を信頼してるってコトか?
 だけど、あいつになんの権限があるというのだろう。
「銃弾が無尽蔵にあるとは思えんな。……となると」
 ふたたび独り言をつぶやく。
 おれと話すとき以外の彼の表情は変わらずに険しい。
 そんな顔を見てしまうと、もう何も言えない。
 おれは、こんなとき何もできない自分が悔しい。
 コックピットを降りてしまえば少しも役に立たない。
「止まった」
「え?」
 機銃の掃射が突然中断した。彼の表情がさらに険しくなる。
「脱出するぞ」
「ええっ?」
 バスルームから飛び出した彼を必死に追う。
 彼はクローゼットからコートを取り出してドアの前で銃を構えた。
 そんなモノをいつも携帯しているのか?なんのために……。
 まさか、こんなコトがいつも起こり得るということなんだろうか。
 室内を振り返ると、壁もガラスも跡形もなく、強風が吹き込むそこは廃屋のようになっていた。
 ヘリは変わらずホバリングを続けながら室内に機首を向けている。
 どうやら機銃は撃ちつくしたようだ。
 けれど、そのすぐ下におれは嫌なモノを見つけてしまった。
「まさか、こんなトコでミサイルは使わないよね?」
 そう言っていながら、自分で自分の表情が強張るのを自覚した。
「貴史、出るぞ」
 彼の発令に身体が反応して、ドアをくぐって走り出した彼の後を必死に追いかけた。
 一直線にエレベーターホールへ向かう。すると、通路の角から武装した黒服の男たちが現れて、おれたちに発砲してきた。
 冗談じゃない!
 なのに、もっと冗談にならない事が起こった。
「伏せろ、貴史!! 」
 轟く爆音。叩きつけられる爆風に体が持って行かれそうになる。
 こんなところでミサイルを撃ってきた。
 生身のおれたちに、そこまでするか?
 廊下にまで吹き荒れる粉塵のなか、武装軍団が発砲を続ける。
 彼は応戦しながら壁伝いにおれを引っ張って、エレベーターホールに向かって行く。
 ホールの角までやっとたどりついた時、彼はそこに斃れている男から自動小銃を取りあげて、ポケットから弾倉を抜き取った。



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あきゅろす。
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