僕の痛みを君は知らない
それからのヨッパライ1
誰かの携帯が鳴った。
それぞれ、自分のものではないコトを確認すると、艦長が袂から小型の携帯電話を取り出した。鳴っていたのは艦長のものだった。
受信のスイッチを押して応答する。
「……俺だ。……いや、今響姫先生のところで飲んでる」
どうやら仕事じゃないらしい。
それにしても、ずいぶん似合わない携帯だ。それ、女の子がよく持ってるやつだよ。
「来るか?……え?橘?……ああ。亭主がここにいるしな」
静香御前が来るのか。
彼女には複雑な思い入れがあるよなあ。
パイロットとしては一流ですごく尊敬しているけど、立川さんをめぐって宣戦布告したこともあった。
あまり他人には知られたくない過去だ。
「ああ、じゃあせめて酒買って来い。……純米だぞ」
艦長はそう命令してから携帯を切った。
ホント、命令が板についてるよな。
携帯をふたたび袂にしまう艦長に、立川さんがニヤリと邪まな笑いを向けた。艦長は不快そうな表情で返す。
「相変わらず、専用ホットラインか?」
ケッケッと笑ってからかう立川さんを、艦長はムッとして相手にしない。
「ああ。……それ、もしかして『都合のいいライン』ですね?」
逆襲の場を得たりとばかりに、慎吾がつっこみを入れる。
都合のいいラインって何だ?
「うるさい。ホットラインで何が悪い」
ぐい呑みを飲み干して、すぐに手酌で酒を注ぐ。
察するに、あの携帯は恋人専用ってトコか。あの携帯ひとつで、いいように使われてんだろうな。だとしても、艦長ほどの男をそんなふうに使える女ってどんなんだろう。あとの3人は相手を知っているみたいだけど。
静香御前と親しいって云えば、葵しか思いつかないな。だけど、葵は土井垣だしなぁ……。
釈然としないまま酒をちびちび味わっていると、今度は別なベルが鳴った。ドアのベルだったけど、それと同時に来客の挨拶が聞こえて来た。
先生が迎えに出てから、すぐに客を連れて帰って来た。
「どうも、おじゃまします」
現れたのは杉崎隊長だった。その後ろから……蘭丸じゃないか!?
「おっ、帰ったか。今着いたのか?」
艦長が弟の帰還を知って上機嫌で迎える。
「ああ、今朝着いて。……あ、どうも、いただきます」
先生に杯を渡されて酌を受ける。
なんだかゲストが多くて盛り上がってきたな。
「今やっと解放されて。家に連絡したら兄貴がここに来てるって言うんで、先生にも挨拶しようと思って寄ってみたんですよ」
蘭丸が隊長の隣に座って、おれに向かってこっそりと挨拶のサインを送る。
隊長の帰りをちゃんと知っていたわけか。
多分まっさきに隊長が蘭丸に連絡したんだろうな。
新春デートとはうらやましい。
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