[携帯モード] [URL送信]

僕の痛みを君は知らない
32






 終わった後も、聖は額やまぶたにキスを贈ってくれた。
 愛しいものを、愛情のありったけで包み込む視線は、見ていてこっちが切なくなる。
「まだまだウブで可愛いね。ごちそうさまでした」
 そんなカオでなんてコト言うんだよ。
 シーツと毛布を直して、おれを抱き寄せてベッドの中にもぐる。
 近くで見つめ合って、彼のすみれ色の瞳がおれを映し出していた。
 額をコツンと合わせて、夢見るように聖はつぶやいた。
「ぜったい……離さない。誰にも渡さない」
 キスをして、そして抱きしめられた。
「愛してるよ」
 熱い身体に包まれて、おれは幸せな気分になる。
 あの日、君と出会わなければ。おれはどうしていただろう。
 まだ、黒木さんの気持ちも分からなくて、辛い日々を送っていたかもしれない。
 君になら、おれは素直に甘えられるんだ。
 ありがとう聖。おれは君に感謝してる。
 もちろん、愛してるよ。
「――二日間、どこに行ってたの?」
 聖が尋ねてきた。いまさらそんな事を訊くのか?
「黒木さんの屋敷に……」
「そう。あいつも一応考えたわけだ」
「なにを?」
「タカのロストバージンに相応しい場所」
 ど。……どーしてそういうコトを言うかなあ、このひとは。
「ここは、初めての場所だから気に入ってはいるけど……」
 何を言いたいのか。
「雅の屋敷は良かったか?」
「驚いたよ。あんなすごいトコに住んでたなんて」
「あいつが普段いるのは市内のマンションだけどね」
 ああ、それでめったに帰らないって執事が言ってたんだ。
「じゃあ、今度はオレの屋敷に連れて行ってやるよ」
 え?……聖の屋敷?
「ちょっと遠いんだけど、アンティークでいいぞ。……ちなみに日本風だから」
 おれたちは同じ日本人だから…と、念を押したそうな悪戯な笑顔だ。
「聖の家はここじゃなかったの?」
 ここだって、独りでいるには十分広すぎる。
「ここは、あっちの仕事用。軍総帥がこんな市内のマンションから通勤できないだろ。爆発テロにでもあったらご近所に迷惑をかける」
「総帥と聖は同一人物だって、知られていないの?」
「トップシークレットだ。……といっても、軍の中では公然の秘密だけどね」
「そんなの嘘だろ。分からないわけないじゃないか」
「オレも雅もちゃんと使い分けている。業界にバレるようなヘマはしないよ」
 自信ありげに笑ってみせる聖は、マスコミを手玉にとる芸能人の顔をしていた。
 そうだよな、おれだって芸能人である聖と接したことがない。スケジュールが合わなくて、生の歌すら聴いたことがないんだ。
 とそんなもうひとつの顔を忘れるほどに、聖はそんな素振りを見せないでいた。
 待てよ。じゃあここは総帥宅ではなく、EXCELのHIJIRIのマンションだってコトか?
「じゃあ、いまここにいる聖は、芸能界の聖ってコト?」
 なんだか嫌な予感がしてきた。
「ああ……。そういうコトになるな。タカといるのにそんなの考えた事もなかったけど」
 おれは慌てて起き上がった。
「おれ、パパラッチに狙われるなんて嫌だよ!」
「そんなヘマするか。外で会うときはいつもただのダチだったろ?」
 ニヤリと笑う聖の下心がやっと理解できた。
 あんな付き合い方をしていたのは、マスコミ対策だったのか?
 ああ……。一筋縄ではいかない。
 本当の彼の姿はどこにあるのだろう。
「オレはオレ。芸能界も軍も関係ない。今、タカの目の前にいるオレが武藤聖なんだよ」
 余裕で笑って見せる聖。
 本当だろうか。
「それにしても、タカの思考は『オレ』型なんだな」
 何か良からぬ事を企んでいる。
 聖はベッドをポンポンとたたいて、おれに戻るように指図した。
 おれはふたたびベッドにもぐって、聖の腕の中に戻った。
「感情が素に戻ると『オレ』に変わる」
 あ。すっかり見抜かれているよ。
「無理しなくていいんじゃないの?オレの前にいてまでカタチ作ることないじゃん。オレも素顔のままでいてくれたほうが嬉しいよ」
 そんなふうに何もかも許されると、ホントにいいのかなって気がしてくる。素顔ばかり見せて、緊張感がなくなったらどうするんだよ。
「――ね?」
 おれを甘やかすような事を言ってからにっこり笑うと、聖はおれの上にかぶさって抱きしめてきた。
 かなわないなぁもう。
 あ……。なに?また?
 やんわりと包みこむ唇が、そっと舌を吸い上げた。おれに触れる指が、快感を呼び起こす。
 やっと鎮まった身体になんてコトするんだよ。
「……あ」
 思わず声がもれる。
 さんざんなぶられた後だから敏感になってるよ。
「もう、こんなにして……。元気だね」
 ……って、聖がそうなるように仕向けたんだろう。
 元気じゃないよ。疲れてるんだよ。
 聖がおれを愛撫する手を休めずに、ジェルコートの包みを噛み切って開封する。器用に片手で装着して、そのまますぐにおれを抱きしめてきた。
 慣れすぎだよ聖。キャリアが違いすぎる。
 つか、もう臨戦態勢なの?
 いとも簡単に肌が密着する程挿れられて、奥の痛みを伴った充実感に陶酔させられる。
 おれはふたたび聖に引きずられて、快楽の波にのみこまれてしまった。
 自分の啼き声が、信じられないくらい甘ったるくていやらしいって事に気付いてしまった。
 それを聖は楽しんで、本当にずっと離してくれない。
 このキレイな男のどこに、こんな精力があったんだろう。
 バカヤロウ。
 気持ちいいじゃないか。
 セックスなんてしそうもないような顔して、どうしてそんないやらしい技のセックスができるんだよ。
 ……ああ。このままじゃ、今夜も寝かせてもらえそうもないなぁ。




[*前へ][次へ#]
[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!