僕の痛みを君は知らない
19
痛ぇ……。
全身が軋むようだ。おまけに右の背中が焼け付くような重苦しさで、マジで死にそう。
誰だよ。痛ぇよ。髪引っ張んな。
「生きてるか?おい」
……のヤロ。
おまえらだろ、おれを狙ったのは。生きてるかじゃねーよ。
痛ぇんだよ。手ぇ放せって。
「今、死なれては困る。早いとこ交渉にこぎつけるぞ」
なに勝手なコト言ってんだ。
おれは、死にたかねー。
やっとの思いで目を開けて周りを見ると、趣味の悪い黒服とサングラスの男たちが、おれを取り囲んで注目していた。
ここはどこのオフィスだ?
ものものしい端末機の数。部屋の一角には通信装置か?
一体なんの団体だろう。
交渉ってのは、やっぱり黒木さんが相手なのかな。
「お目覚めかな、中尉どの」
おれの素性は調査済みってことか。
「黒木会長の傍にあったのが不運だったな……。交渉が済んだら、すぐに楽にしてやる。それまでの辛抱だ、悪く思うなよ」
ああ……。またそんな事に利用されるわけね。
なんだかあのふたりにはいつも迷惑かけているよなぁ。ふたりを狙う連中にとっての格好の人質スタンスかよ。情けない。
自分の身くらい自分で守れないと、あのふたりとは付き合えないってコトか。
そういえば、聖はおれのために命張った事があったよな。
聖にとってのおれは、価値があるのかな。
そんな事考えたこともなかったけど、もしかしたら、やっぱりおれ、愛されていたのかな。
黒木さんはどう出るだろう。
なんたって国家機密に相当する事だ。たかだかおれのために交渉に応じるとは思えない。
ばかだなぁコイツら。
おれは思わずハナで笑ってしまった。
「何だ?」
ムッとした厳つい顔の黒服がおれに凄む。
「――会長ってさ。なんなの?」
腹に力が入らない。声が情けないくらい弱々しい。
「誰も、何にも教えてくれなくてさ……。俺、どうせ死ぬんだろ? 教えてくれよ」
「今更なにを言ってる。シラを切っても、おまえと会長の関係は調査済みだ」
「そうじゃなくてさぁ。……俺、あのひとの正体知らないんだよ。教えてよ。なんにも知らないままじゃ、死んでも死に切れないよ」
「なんだ」
黒服が嘲笑を見せる。
向こうの端末では、オンラインで交渉が始まったらしい。
おれのこの姿が、端末に入力されて送られている。カッコ悪いから止めてくれよ。縛りあげられている姿なんて、人様には見られたくない。
「素性も知らずに愛人をやっていたのか?」
その『愛人』ってのはヤメロ。
「合法だが非合法。軍事に関係するあらゆる産業の流通を一手に統括しているゼネラルコーポレーションの会長、財界の黒幕だ。裏で黒木の名を知らない者はいない。噂じゃ四.五百年はHEAVENに君臨していると言う話だが……だとしたらバケモノだ」
目眩がする。
道理で、ブロンディ中将でさえ彼を敬うはずだ。
それならなぜ、そんな大物がフェニックスの海兵隊なんかやってるんだ?
分からない。人違いなんじゃないのか?
「――HEAVENの連中なら、恐ろしくて手も出せないだろう」
……って、おまえらHEAVENの連中じゃないのかよ。
「我々は、おまえたちにも煮え湯を飲まされた。特に大佐はおまえにも貸しがあるそうだ。どのみち命はないものと思ったほうがいい」
大佐?
大佐って誰だ。おれたちが個人的にかかわった相手なんて。
クロイツにはこっちが貸しがあるくらいだ。だとしたら……。
まさか?
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