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僕の痛みを君は知らない
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 基地に着いて、車を駐車場に停めてから、入り口でカードを通す。声紋照合をしてからドアが開いて、電脳のおねえさんの声がおれを中に招きいれた。
 基地の集合場所である大会議室に入ると、すでに大勢のパイロットたちが集まっていた。主力艦所属のパイロットが一同に介している。有名な顔がこれだけ揃うと壮観だ。
 なんだろう。大勢の視線を感じる。いつもの視線とは質の違った意識が集中しているみたいだ。
 そのなかから、ひとりのパイロットが近付いてきた。
「やっぱり、野村中尉。お久しぶりです。覚えていらっしゃいますか?」
 長い髪の可愛い女性パイロットだ。
 女性にはあまり縁がないので、忘れようがない。
「確かセレスの。……さくらさん?」
「桜野です」
 彼女は小首をかしげてクスッと笑った。
 以前、戦場で拾って来た、ひびき先生の元恋人だったと思う。
「あのときは、助けていただいたのに、十分お礼もできなくて」
「いいよそんな、お礼なんて」
 傷ついた仲間を助けるのに、いちいち礼をされても困りものだ。
 そういう社交辞令は苦手だったおれは、話題を変えたかった。
「それより、君もこのカリキュラムに?」
「ええ。これをクリアすればスペシャルクラスですもの。せっかく生きのびてパイロットを続けているのなら、そういうチャレンジはしていたいわ」
「ふうん。立派だね。生き延びてきただけでも、優秀だと思うけど」
「そんなふうに言えるのは、中尉がすでにS級だからですよ」
 それは買いかぶり過ぎだ。おれがS級なものか。
「戦場でのご活躍は有名です。大統領を救出されたとか……」
 それで、視線が集中していたのか。噂の出所はどこだ?
「セレスに乗艦された大統領が、中尉の事を気にかけていました。『野村』というパイロットは中尉しかいらっしゃらないでしょう?」
 大統領本人だったか……。
「違うよ。救出したのはフェニックス海兵隊だ。僕はただの通りすがり」
「また……。謙遜ばっかり」
 彼女はクスクス笑っておれを見つめる。その羨望の眼差しはやめてくれ。
 おれが困っていると、背中から抱きついてくる者が現れた。
「タカさ〜ん。珍しいですね、女の人とおしゃべりですかあ?」
 妙にトゲのあるこの物言いは葵だ。なにやきもち焼いてんだよ。
「僕だって、まれに女の子とおしゃべりくらいするよ」
「ふ〜ん」
 何か言いたげな葵の後ろから、わらわらとフェニックスのメンバーが湧いて来た。
「隊長、珍しいですね。女性を近づけるなんて」
 武田。コノヤロウ。
 おれは修道士か。
「べつにタカは女嫌いってわけじゃないよ」
 さすが蘭丸。よくわかっているな、友よ。
「――男好きだってだけで」
「らんまる〜〜」
 あっけらかんと言い放って笑う蘭丸。おれはヤツの襟を締め上げた。
 そのとき、また更にうっとおしい連中が乱入してきた。
「へえ……。噂のフェニックスチームってのは、本当に綺麗どころを集めてんだなあ……。そんな華奢な腕で戦闘機が操縦できんのかぁ?」
 紋章はクエーサー。セレスの護衛艦(シンパ)だ。
 セレスがいつも何かとフェニックスをたてるものだから、ヤツらはそれが気に入らないらしい。
「可愛いねぇボーヤ」
 パイロットのひとりが葵をからかった。バカだ。
「あたしは女よっっ!」
 案の定葵は怒る。あたりまえだ。
 思いがけない事実に戸惑って、ヤツは蘭丸に目をつけた。
「――彼女も、フェニックス?」
 とことんバカだ……。
「僕は男だよ」
 むっとした蘭丸が言い捨てた。
 武田たちが笑いをこらえている。
「コックピットで必要なのは筋力じゃないし、ガタイがデカけりゃいいってモンじゃない。引力圏ではむしろ小柄なほうが有利だ。彼女らを甘く見ないで欲しいな」
 ヤツは何も返してこない。
 そりゃそうだ。ラダーの操作に握力は関係ない。
「ついでに言わせてもらえば、容姿はヘルメットで隠れるから、あまり関係ないと思うけどね」
 珍しく強気発言してしまった。まあ、隊長としてチームの連中を中傷されるのは、あまり気分のいいものではないから仕方ない。
「――失礼するよ」
 おれはチームを引き連れて彼等から離れて行った。
 後ろで、桜野さんがヤツをシメる声がした。
 いい気味だ。



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あきゅろす。
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