僕の痛みを君は知らない
13
総帥執務室から解放されて、ふたたびツアーに戻った聖や作戦に向かった黒木さんと別れて自宅へ帰ったおれは、翌日出勤してからパイロット強化訓練のスケジュールを言い渡された。
年をまたいで三週間のプラン。こんな年の瀬に上部はいったい何を考えているのか。
こんな寒空での訓練だなんて、さぞかし傷心にこたえんだろうなあ。
それにしても葵はよくやっている。あの事件当日も、夜間訓練だったって言ってたし。
単なるおっかけが高じただけのミーハーなおねえちゃんかと思ってたけど、すっかり根性がはいってきた。
それに比べてこのおれは、なんだか冴えないしやる気も出ない。
気に入っていたダウンジャケットも爆破されてしまったから、仕方なくフライトジャケットをひっぱりだした。
ついてないよなぁ……。
地下の駐車場から車を出したら、積もった雪に朝日が反射して目が眩みそうになった。以前使っていたサングラスをボックスから探し出してかけたけど、やっぱりあっちのほうが遮光率はよかった。
車のラジオのスイッチを押す。朝の番組のニュースには、あの事件についての報道が一切ない。ダウンジャケットもサングラスもお気に入りだったピアスも全部爆破されて、銃撃戦までやらかして大騒ぎだったはずなのに、テレビもニュースペーパーも沈黙を守っている。
きっとあのふたりが、報道を規制したのだろう。国家機密だか何だか知らないけど、そういうのって裏の力を思わせられてなんだか嫌だ。談合社会ってヤツなんだろうけど、民主主義が聞いて呆れる。
あ〜あ。
平凡な日常とささやかな幸せなんて、おれにはまったく縁がなくなってしまった。
おれは立川さんに恋していた頃が懐かしい。あのひとに逢うと、今はなぜかほっとする。
聖もそれを見抜いているのかな。
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