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僕の痛みを君は知らない
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「そういう事を知りたいのなら、早くここまで昇進(あが)ってこい」
 またそういう事を言う。
 おれがまだ空から離れられないのを知っているくせに、司令部に転属させようとしている。もっとゆっくり成長を待っていて欲しいと思うんだけどな。
「百年かかるよ」
「大佐の傍で働けるぞ」
「聖!」
 思わずきつく出てしまったけど、やっぱり気にしていたのかって分かった。
 だけど、おれにとっても痛いところを突いてくる。実際、立川さんと一緒に働きたいのはやまやまなんだよな。どうして司令部なんかに転属してしまったんだろう。まだまだ、前線でやれる人だったのに。
 執務室に入っても聖の仏頂面は変わらない。
 ブロンディ中将が出迎えたが、聖は無視して仮眠室に入っていった。彼はそんな事に慣れているのか、さして気にも留めていない様子だった。
「聖は大佐との事を誤解してるよ」
 おれと視線も合わせないで、上着を脱いでからクローゼットにしまってあった私服を取り出す。
 もうツアーに戻ってしまうつもりなんだろうか。
「――まだ好きなんだろう?」
「好きの種類が違うよ」
「どう違う?あんな表情(かお)見せておいて……。ふたりでなに通じあってるんだよ?」
「違うだろう」
「だいたい多情だよタカは。早乙女にしたって立川にしたって、何かありそうだと思わせられるだろ」
「なんでそこに慎吾がでてくるんだよ?」
「あのときホントに何もなかったって云えるのか?」
 あのとき……って、慎吾と飲んで酔いつぶれたアノときの事だろうか。まだ覚えていたのか?
「信用してくれないの?」
 胸が痛んだ。
 好きな相手にそんな風に云わせるなんて、男として情けないと思う。
 ホント、おれってつくづく情けない男だな。
 それまで背中を向けていた聖が、おれの方を振り向いた。
「聖が好きだよ。抱きたいのはいつも聖だけだった。今もそうだよ」
「抱かれたいって思ってるのは、他にもいるんだろう」
 聖が落ち込み加減で返してきた。
 誤解だ。それは訂正したい。
「抱かれたいなんて思ってないよ。黒木さんとだって……まだ心の準備ができていないのに」
 何て言えばいいのか分からない。気持を伝えるってホントに苦労する。
 おれが困っていると、聖は途端に表情を和らげてきた。本心を伝えるときのおれの癖を、聖は見抜いているらしい。
「傍にいてよ。わけわかんなくて、落ち込み気味なんだ」
「タカ……」
 聖がやっと、いつもの聖に戻った。
 おれは少しほっとした。やっぱ怒ると怖い。いつもは隠している、総帥としての絶対的な存在感と威圧感を見せつけられては、やっぱりおれにとっては近寄り難くなってしまう。
「ごめん。もう、困らせないから。許してよ」
 立ち尽くすおれに、聖が近寄って来た。
 そして、やんわりとおれを抱きしめて、頬を寄せてくる。
「オレのほうこそごめん。タカの言うとおり、オレ、嫉妬してた」
 ジェラシーが可愛い感情だなんて嘘っぱちだな。
 こんな怖いものなら、間違っても浮気なんて出来やしない。
 おれは肝に銘じた。
「聖。キスしていい?」
「訊くなよ、そんなコト」
 聖は少し照れ臭そうに応えてきた。
 たぶん、キスに照れてるんじゃなくて、さっきまでの自分の感情で、気まずい思いをしているのだろう。
 おれは聖の唇をそっと吸いあげた。柔らかくてさらっとした感触が気持ちいい。舌先で唇の内側を撫でると、聖は敏感に反応してくる。感度も相変わらず抜群だ。
「聖を抱きたい。いい?」
「だめだよ、こんなトコで」
 触れなば落ちん風情でいながら、抵抗を見せる。
 そういうのもなかなかいいね。
「こんどは、聖を食べちゃいたいよ」
「だめだって……」
 シャツのボタンを外して、その襟元にキスを贈る。聖は小さく喘いで、困ったように目を伏せた。
 少し強すぎたかな。赤く跡がついてしまった。
 だけど、嫌がらないところを見ると、聖もその気が無いわけじゃないらしい。
 おれは、強引に聖をベッドに押し倒した。
 どうしよう。ちょっとだけスキンシップのつもりが、なんだか歯止めが効かない。
 隣の執務室にはブロンディ中将がいる。そうなんだ、ここは神聖なオフィスで。こんなオフィスラブに耽っている場合じゃ無い事も分かっている。だけど、こんな据え膳状態を我慢できるほど、おれはまだ大人じゃない。
「タカ……やめ」
 そんなんじゃ抵抗にならないよ、聖。
 そんなイイ声出されちゃ、よけいにきちゃうよ。
 お願いだから、そんなに可愛い顔しないで。
「聖」
「ダ、メだって……」
 ああ。もう、ガマンできない。



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あきゅろす。
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