僕の痛みを君は知らない
1
雪が降って来た。
人生23年目にしてHEAVENにやってきたばかりのその頃のおれにとって、それは初めて体験した幻想的な風景だった。
ゆっくりと舞い落ちる、純白の綿毛のようなそれは、差し出した手のひらですっと消えて無くなってしまう。あとには涙のような小さな滴が残されて、まるで、地上に落ちる前に消えてしまった事を嘆いているようでもある。
吐く息が白く凍って、ついに冬がやってきたと実感する。
ここでおれは二度目の冬を迎えていた。
この星の文明は不思議だ。
屋内では快適な生活をしていながら、全くといっていいほど屋外にはその影響が及ばない。排出されるエネルギーの制限が、地球とは違った環境を造り出しているようだ。
羽毛を打ち込んだジャケットを着込んで、体の芯は暖かくても、外気にさらされている顔や手は冷たい。ときどき冷えた手のひらを吐息で暖めながら、街角の雑踏をながめて、時計の針が約束の時間をとっくに過ぎていることに少しだけ苛立ちを覚える。
人混みは好きじゃない。
雑踏やざわめきといったものに耐性がなくて、密集してうごめいているものを見ると気分が悪くなる。
というか、ひとの視線が嫌だ。
横目で盗み見されるだけならまだいい。不躾な視線で、頭のてっぺんからつま先までじっとりと2往復ほど視姦されることもしばしばだ。
自分のどこかが何か変なのかと思って、自分自身を確認したりしても別に何がある訳でもない。
おれが一体なにをした。……と思う。
そういう時はサングラスをかけて視線を遮断する。
あからさまに向けられる視線が減ってほっとした。
実際同じ目に遭った同じ感性の奴じゃないと、この気持ちは理解されないだろう。
おれはこう見えても繊細なんだ。
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