楽園の紛糾
Love Songが聴こえる4
愉悦が沢口を包み込む。
丁寧に開かれたそこは、心とは裏腹に早く杉崎に埋めて欲しくて焦れていた。
認めたくなくても、真実はひとつしかなくて。取り返しのつかない事をしてしまった今でも、身の程知らずに愛を乞う自身が、浅ましく思えた。
与えられるくちづけに酔いながら、閉じられた瞼から涙が零れ落ちる。
「嫌……だ」
解放された唇が、最後のなけなしの抵抗を示す。
しかし、思いとは裏腹に、心と身体は杉崎を求めて止まない。本当はずっとこうされたかった。こんなふうになってしまう前に愛されたかった。
もう、後戻りできない自分自身の在り方に、沢口はたまらなくなって涙を零し続けた。
「沢口……。もっと素直になれ」
零れる涙を接吻で拭ってささやく。
「もっと素直に甘えてこい」
サラサラと頼りない前髪を撫で上げて、心まで包容するような温かな視線を注ぐ。
「もう、傷つけたりしないから」
ささやきが沢口の頬を濡らして優しいキスが贈られる。
そんな杉崎の想いが痛い。
ぽろぽろと涙を零しながら、頑なになっていた心が緩んだ。
どうしてこのひとはこんなにお人よしなのだろう、と沢口の胸が熱くなる。
彼の話す事が本当なら、勝手に勘違いして自暴自棄になっていた自分が悪い。
彼は自身の曖昧さを認めて謝ってくれたのに、自分は自分の過ちを認めたくなかった。
しかし、そんな意地を張っても、自分が辛くなるだけだと認めざるを得ない。
「――ごめんなさい」
重く凝っていた心が澱の中から抜け出して透明に晴れてゆく。
「自分は……バカなことたくさんしてきた」
涙に濡れた声が嗚咽に溺れる。
「おまえが帰って来てくれるのなら、それでいいんだ」
杉崎はそっと唇を合わせて応えた。
待てなかった自分が悪い。
それなのに、杉崎は決して自分を責める事なく包容してくれる。
「杉崎さん……」
涙で愛しいひとを呼ぶ声がくもる。
それでも、沢口はずっと欲しくてたまらなかった杉崎を呼び続けた。
「――杉崎さん」
抵抗していた腕が、いつのまにか杉崎を抱き寄せていた。
暖かいぬくもりも、柔らかな肌も、思っていたとおり優しくて嬉しい。
寄せ合う肌は熱を持って互を欲しているのが分かる。
熱に浮かされた互いの身体は、まるで以前からそうであったかのようにひとつに結ばれた。
唇が杉崎の接吻で塞がれて、舌を吸い上げられて緊張が解けた一瞬、沢口の中に熱い肉体の一部が侵入した。
それは容易な事ではなかった。
十分に手を加えたはずなのに、沢口のそこは固く締め付けてくる。
杉崎の肩に添えられた指が、不安に耐えているように力を込める。
まるで、まだ何も知らない身体のようだと杉崎は感じていた。
やがて、ゆっくりと動きを与えられて、沢口の身体はさらに苦痛に包まれてゆく。
どうしても緊張を隠せない沢口の様子に、杉崎はなんとなく気になっていた事を尋ねた。
「快くないか?」
自分を慮る視線にさらされて、沢口は嬉しい反面、困惑を見せた。
「だって……。初めてだから、分からない」
言葉に詰まりながら答える。
「初めて?」
杉崎は上体を離して沢口を見下ろした。
全く想定外な事実を知らされて杉崎は狼狽する。
「だって、おまえ」
杉崎の言いたいことは分かる。
身売りしていて、初めてだなんて信じてもらえるわけがない。
けれど、経験が無いのは本当の事だ。
「――どうしても、ダメで。……きっと」
沢口は熱い顔で視線をもちあげて杉崎を見つめた。
「俺は……あなたに抱かれたかったんだ」
変わらない瞳が、切なかった想いを語る。
どうしても忘れられなかった想いが痛い程伝わってくる。
杉崎は、以前よりもずっと細くなった身体を、愛しさを込めて抱き締めた。
「杉崎さん?」
繰り返し啄むように降り注ぐ接吻に戸惑いながら、沢口は心地よい愛撫に身を任せた。
一度、緊張が解けるまで待って、ふたたびゆっくりと与えられた刺激は、様子をうかがいながらそっと愛されているようで安心する。
うねる波のような愛撫に包まれて、次第に昂まってゆく欲をどうしていいかわからないまま、硬く頭を持ち上げたそれは触れて欲しくて焦れているようで、無意識に杉崎を誘ってくる。
杉崎は沢口の身体を抱き起こして、膝の上に座らせると、硬くなった沢口自身をやんわりとその指で包んだ。
「――あッ、や!」
ずっと深くまで繋がって、身体の奥の痛みを伴って杉崎を感じる。
指でやんわりと濡れた先端をなぞられて、過ぎた快感に身体が焦れる。
「いっていいんだぞ、沢口」
「だって……あッ」
身体の内側から、例えようのない疼きがひろがってきた。
「遠慮するな……。冷める余裕を与えるつもりはないからな」
悪戯なささやきが沢口を快楽に引き込む。
沢口は杉崎に縋って、その愛撫に身を委ねた。
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