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楽園の紛糾
I will3





「――いいね。つかの間の恋は儚くて……綺麗なままで終わる事ができる」
 早乙女は、感情を自制している野村の肩をそっと抱き寄せた。
 自分のすべてを受容してくれるような早乙女に野村は抗えない。
「我慢するなよ。失恋した男なんて、メソメソして未練がましく泣いてりゃいいのさ」
 自制を越えて、涙はこらえ切れずに零れ落ちる。
「恋だなんて、わからない。ただ、離れてしまうのが嫌だった。クロイツに行って欲しくなかっただけなんだ」
 野村の本心が語られる。早乙女は黙って耳を傾けていた。
「戦いたくはない。もう彼女に会えないのは分かっているけど……。でも、せめて彼女にだけは銃爪を引かずにすむようになりたい」
 こんな醜態を他人に見せる事など人生の恥だと、いままでの野村なら絶対に本心など明かさなかったろう。
 早乙女との共鳴が野村を変えていた。
「もう僕は、パワードスーツとは戦えない」
「それは困るな。君には、活躍してもらわないと」
 突然現実的な意見を返してくる早乙女に、野村は恨めしそうな視線を向けた。
 早乙女はクスクスと笑う。
「今後、クロイツとの戦争はあり得ない。安心していいよ」
「ホントか?」
「多分ね……」
 疑り深い視線が、早乙女に注がれる。
「僕だってルビーシュタイン閣下とは戦えない。戦いたくはない」
 早乙女もまた本心で応えた。
「僕は、彼女に恋していたよ……。非現実的な日常で、互いの魅力的な部分しか知らないでいられた」
「夢語りか?」
「――うるさいな」
 早乙女は憮然とした。
 ひとりが夢にひたると、もうひとりが現実に引き戻す。
 それは程よくバランスが取れていて、ふたりを冷静に維持していた。
「リアルじゃないんだよ。確かにそれは現実なんだけど、どこか違うんだな……。夢のようにおぼろげで、全てを知っているわけじゃないのに、全てを好きになったように錯覚して溺れていってしまう」
 野村との共通の感情を言葉にしてみる。
「彼女を忘れるなんて事はしなくてもいい。スカーレットはいい女だしね。彼女からもらった思い出を、後生大事に抱えて生きていったほうが男として魅力的だと思うよ」
 早乙女の言葉を聞いているうちに、野村の目がふたたび潤んできた。
「彼女の想いなんて……。知らない方がよかった。そうしたら、あれはただの通りすがりだって思えたんだ」
「でも、答えがほしかったんだろう?」
 早乙女の問いかけに、野村は無言だった。
「君の目が、そう言っていた」
 スカーレットの名を聞いたときの野村の反応が、答えを求めていた。
「君たちは確かに恋をしていたんだよ。相手を思う綺麗な気持ちのままで、時間は止まったんだ……。それはあるいは、しあわせなことなのかもしれない」
 まるで、儚い恋物語のように語る早乙女の話を聞いていると、なんだかたまらなくなる。だんだんその気になりそうで、野村は逃れたくなってきた。



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