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楽園の紛糾
I will2





 自分にあてがわれた士官室の一室に、野村を連れてきた早乙女は、くつろぐようにソファーをすすめた。
「なにか……といってもこれしかないけど」
 上着を脱ぎなから冷蔵庫を漁って、取り出したアルミボトルを投げてよこした。
「酔わなきゃ聞けないような話なのか?」
 そのボトルを眺めて野村が尋ねる。ラベルにはビールの商標が印刷されていた。
「僕もシラフじゃ言いにくい」
 早乙女の苦笑いを見て、野村の感情は重く圧迫される。
「本当は、酔った勢いで洗いざらい白状して欲しいんだけどね」
 早乙女はさらに嬉しそうに目を細めて悪戯っぽく笑って見せる。彼のこんな表情は初めてだ。
 親密につきあった事などなかったが、今の彼からは親近感が感じられる。
 それは一体なぜなんだろう。
 野村は不思議そうに早乙女を見てから、ボトルの栓を開けて一気にあおった。
「――短いあいだだったけど、楽しかったわ……ってさ」
 何げなくボトルに口をつけながら言う早乙女の言葉で、野村はむせた。
「な……。なんで、おまえにそんなコト」
 愕然とする野村を見て、早乙女は苦笑する。
「そうだな……。やっぱ、僕の事から話さなきゃダメか」
 早乙女は事情を説明した。
 洗いざらい、誰にも話せなかった事実を野村に告げて、自分とスカーレットの関係を明らかにした。
 そんな重大な告白を聞かされて、野村は絶句してしまった。
 そんな辛い思いをしていながら、どうしてこんなふうに穏やかな笑顔でいられるのだろう。
 野村は不思議だった。
 早乙女がクロイツの黒服に身を包んでいた事も、特別な意味などないと思っていたが、本物の指揮官だったとは驚きを通り越して信じられない。
「辛かったよ……。本当に辛かった」
 記憶を封印されていた時の自分を思い出して、早乙女は少しブルーな気分になる。
「だけど、何よりも一番大切なものがここにあったから、僕は戻って来た。拭えない事実と僕の罪は大きすぎるけれど、もう先生を悲しませたくないからね」
 穏やかな視線を足元に落として、話し続ける早乙女。
「だから……君たちの関係が、君の想いが、少しでも分かるような気がするんだ」
 早乙女は視線の先をもちあげて、野村を見つめた。
「君に、恋をしていた……と、言っていた」
 スカーレットの告白を聞いて野村は言葉を失った。
 喉の奥が痛む。胸が重く圧迫されたように苦しい。
 野村の感情は押さえようもなくあふれ出してきた。
 あの想いが、いったい何だったのか分からなかった。
 単なる好き嫌いの感情ではなく、愛情でもなかったあの想いが、はたして恋と呼べる感情だったのだろうか。
 野村にはまだ実感がわかなかった。



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