楽園の紛糾 Hold you tight10 「迷惑だった?」 立川が去った後、野村は聖を見上げて尋ねた。 「そうじゃないけど」 「けど?」 「タカは雅が好きなんじゃなかったのか」 少しだけすねたように聖は視線を返してくる。 「聖も好きだよ」 野村は穏やかに笑った。 「あのとき……。僕を抱いてくれたよね。守ってくれたのは、聖だろう?」 聖は、ルノーに囚われて銃口を向けられた野村を、反射的にかばっていた事を思い出す。 自分でも考えなしだと思っていた。しかし、あの時はそうする事しかできなかった。 「嬉しかった。あんな状態なのに、君の体温があたたかくて」 柔らかな笑顔が、聖にはまぶしかった。彼が無事で本当によかったと思える。 「聖、僕は君が好きだよ。たまたま黒木さんと同じ時期に出会ってしまっただけで。時期が違っていたら、きっとそれぞれの時間のなかで、ひとりだけを好きになっていたかもしれないけど……。でも、もう出会ってしまったんだ……。許してくれるよね、聖」 「タカ」 聖はベッドに膝をついて、野村に身体を寄せた。 「オレのコト、好きでいてくれたの?」 「はじめから言ってるだろ? 君が好きだ、って。……今でもその気持ちは変わらないよ。だから、辛かったんだ」 聖に惹かれて、どうしようもなく身の置き場がなくなるような気がして怖かった。 社会的にも存在の大きな聖に対して、どう接していいのか分からなくなりそうで。自分の感情が自制できなくなりそうで自信がなかった。 今は、聖を失う事のほうが怖い。 野村の整理された感情は、やっと自分の本心を受け入れていた。 聖は、切ない胸の疼きを覚えた。 「――君を、抱いてもいいの?」 らしくない控えめな質問に、野村は苦笑した。 「ここじゃだめだよ……」 「じゃあ、キスしてもいい?」 野村はまた、思わず込み上げる笑いを堪えられなくて失笑した。 「そんなコト、訊かなくてもいいよ」 野村は微笑みをたたえたまま、聖の唇にそっとキスをよせた。 9.Hold you tight ――終―― [*前へ] [戻る] |