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楽園の紛糾
Hold you tight7





「――さて、ベネット。早乙女の所在を聞かせてもらおうか」
「聞いてどうするの」
 士官室に通されたスカーレットは、仏頂面で聖と向き合っていた。野村への感情を利用され、連行された事実を知って、彼女は自己嫌悪に陥っていた。
「もちろん、返してもらうさ」
「本人にその意志があるかしら」
 ソファーに深く座り直して聖から視線を逸らすと、横に控える杉崎と目が合った。
「あのこはもうクロイツの指揮官よ。還る意志があるとは思えないわ」
 誰に言うとでもなくつぶやくスカーレットに、杉崎は自分の確信を告げる。
「副長はなんらかの理由でクロイツに一時身を寄せていたにすぎない。大切なものをここにおいたままではいないはずだ」
「まさか。……彼は護衛艦の艦長よ。親衛隊で総帥からの信頼もある。今更 還るなんて」
「護衛艦の名は?」
 聖が更に確認する。
「ラインゴルト」
 面白くなさそうな態度をとっていながら、素直に応えてしまうスカーレットの在り方に杉崎は穏やかに微笑んだ。
「ありがとう。それが分かれば十分だ」
 以前の確執を感じさせない紳士的な杉崎の在り方に、スカーレットは猜疑心を抱く。
「わたしが何者か知っていて礼を言っているの?」
「部下が世話になった」
「以前に彼を沈めているわ。……基地を破壊したのも、フェニックスを沈めようとしていたのもわたしたちなのよ」
「――懴悔か?ベネット」
 失笑する聖の言葉に、スカーレットの表情がピクリと反応した。
「ばかばかしい」
 思わぬ指摘に苛立つ。
「わたしはこれからどうなるの」
「捕虜交換で引き上げてもらう」
「捕虜、ね。ヤキがまわったもんだわ」
「そうでもないだろう。勇猛果敢な活躍ぶりで嬉しいよ。……これでまた戦場(そら)が楽しくなる」
「よく言うわ。前線から引き上げたくせに」
 不機嫌な感情のまま視線を泳がせてため息をつく。
「ところでムトー。あなた整形でもしたの?」
 嫌な事を指摘されて、聖の表情が曇った。
 杉崎は意外な事実に戸惑う。
「随分な美形になったわね。以前の貴方はもっと可愛らしかったわ」
 意味深に微笑みを浮かべるスカーレットと嫌悪の表情を見せる聖の対照的な姿は、気まずい雰囲気を杉崎に感じさせる。
「総帥……自分は先に失礼させていただきます」
 気を利かせたつもりの杉崎を、聖は引きとめた。
「いや、わたしも引き上げる」
 聖は立ち上がり、スカーレットに向き直った。
「ベネット。オレは望んでこうなったわけじゃない。ルノーに撃墜されたとき、半死半生で助かった。気がついたら容姿が変わっていた。……それだけだ」
 自分の身の上にも覚えがある。撃墜された『サラマンダー』は脱出が遅れて戦死したとの報告を耳にしていた。
 同様に傷ついた翼をもつ者。
 微かに悲哀の表情を見せた聖に、スカーレットは共感を覚えた。
「クールビューティーも素敵よ。ムトー」
 視線を落として微笑んでその痛みを受け止める。
 彼女の優しさに触れて、聖は嫌悪の感情を内に留めた。
「ありがとう」
 一言だけ残して、彼は士官室を去って行った。



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