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楽園の紛糾
Hold you tight6





「先生。野村中尉が到着しました」
 あらかじめ連絡を受けていたフェニックスのメディカルセンターは、野村の到着を知って治療室に集中し始めた。
「どうだ?分かるか野村」
 治療室のベッドでキムに補液を施される野村に、響姫は意識を確認する。
「大丈夫です。こんなのカスリ傷でしょう?」
 野村は苦痛様の表情を見せながら無理に笑ってみせる。
 響姫は、思ったよりも軽傷な様子に安心した。
「総帥がえらく動揺してコールしてきたんだ。意識不明で来るかと思ったぞ」
 響姫の言葉で野村は苦笑した。
「撃たれたのはここだけか?」
 左の肩口にそっと触れて尋ねる。
「はい」
「あとは……」
 ユニフォームを剥いだその上半身は、無数の創傷が肌の上を走っていた。深い部分と浅い部分が交差して治療を困難なものにしている。
「――先生」
 難しい表情を浮かべる響姫に、野村は呼びかけた。
「なんだ?」
 自分の困惑を気取られたかと感じて、響姫は視線を合わせる。
「真吾……生きてますよ」
 突然の告知に響姫の思考が白くなった。
 ぽかんとした表情が野村に向けられる。
「居場所分かりますから……もう、心配しないで」
 鎮痛剤の効果でぼんやりとしはじめた表情は、穏やかに真実を告げる。
「慎吾の居所を知っているクロイツのパイロットを連行しました。いま、総帥が事情を確認しているはずです」
「野村……」
 早乙女の無事を信じていた。しかし、はっきりと確信できた事は響姫にとってはこのうえなく喜ばしくて、彼を安堵させる。
「――おまえには、いつも世話になるな」
 響姫は、まるで愛しい者を見つめるような視線を野村に向けた。
 自分が本当に必要としているものをくれる存在。ただの偶然でも、響姫にとっては特別な感情を覚えずにはいられない。
「ありがとう」
 響姫はそう言って微笑み返した。



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