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楽園の紛糾
Hold you tight4





 ツヴァイのコックピットに辿り着いたルノーは、そこから機体を起動させて脱出する事で精一杯だった。
 左脇を深く引き裂かれ、肺の損傷による呼吸困難が自らの死を予感させ、恐怖と焦燥に駆られる。
 直ぐには死なない。このまま帰艦すれば命は取り留められる。
 プロテクターフィルムでパイロットスーツを補強し、片手で傷口を強く圧迫してルノーは強く念じる。
 だが、ツヴァイの後方からガーディアンが追跡していた。
 黒木は許せなかった。
 自分の大切な者を次々と傷つけるルノーの所業は、彼の平静さを奪い去った。
 昔、ヘルヴェルトとの大戦において、ルノーによって重傷を負わされた聖の痛々しい姿は、今でも生々しく記憶に残っている。特に上半身の外傷と火傷は、元の姿を失う程に聖を痛めつけた。
 そして今、野村がルノーの手によって深い傷を負わされた。
 込み上げる憎悪は、最早どうする事もできない。
「ルノー。残念だな……。ガーディアンは足が速い」
「――貴様は」
 ツヴァイに追いついた黒木は、ラインを解放してルノーに迫った。
「憶えているか?あのときは聖が世話になった」
「なぜ、貴様が」
 聖の負傷を機に翼をたたんだはずのエースパイロット。
 こんな時に出会っては分が悪い。
 記憶を呼び覚ます声に、ルノーは戦慄した。
「今度こそ逃がさんぞ」
 ビームランチャーの照準がツヴァイに固定される。
 ロックオンを察したルノーは機体を旋回させ、ガーディアンへライフルを向けてきた。だが、傷ついた身体では機体の操縦すらままならない。
「無駄だ。反応が遅すぎる」
 黒木は何の感慨も無いまま、ビームランチャーの発射ボタンを押した。



 漆黒の空間に新たな閃光が生まれ、そしてそれはすぐに消滅していった。
「沈めたのかしら……」
 リーンフォースの補助席で、野村の身体を抱くスカーレットがつぶやく。
「――ああ」
 ガーディアンの識別信号を捕らえた聖は、黒木の無事を知った。
 そして聖は、混沌とした思考の中に囚われていく。
 野村と黒木のあいだに、どれほどの絆があるのだろう。
 パートナーを守り切れなかった自分は空を飛ぶ資格はないと、まるで添 い遂げるように飛ぶのを止めた黒木。その黒木が、今度は野村のためにふたたび天空へ向かった。
 ふたりの間に割って入る隙などなかった事を、聖はこのとき改めて知った。
「――あ!シャトル。忘れてたわ、大統領のシャトル!」
 突然スカーレットが叫んだ。
「ああーっっ!! 悔しい!取り逃がしたわ!」
 先のアクシデントですっかり忘れていた。あわよくば、ヘルヴェルト大統領の首をいただこうと狙っていたスカーレットは、うっかり情に流されて企みを忘れた自分を叱責していた。
「そう簡単にこの勢力圏から逃げ切れるものか。シャトルならとっくにどちらかの戦力に沈められている」
 HEAVENとクロイツの識別信号が散在する空間で、ヘルヴェルト勢力は制圧されつつある。リーンフォースのレーダースクリーンがそれを捉えていた。
「あ、そうなの」
 少しがっかりした様子で、スカーレットは落ち着きを取り戻した。



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