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楽園の紛糾
戦場6





 コニーとペーペー軍団に外の護りを依頼してから、ヘルヴェルト艦に単身で潜入したスカーレットは、HEAVEN大統領を捜索しながら艦内に深く侵入していた。
「――勝手知ったる他人の艦……って言うか、アドルフと造りが変わらないじゃない」
 同型の造りを有する艦内の構造はスカーレットにとっては有り難い。彼女は会見に使用されるであろうと予測できる会議室を目指していた。
 しかし、予想以上の激戦ぶりにところどころで足止めを余儀なくされ、迂回して進む事もしばしばで、思ったように仕事がはかどらない。彼女はいい加減しびれを切らして、さんざん回り道をしてから力ずくの強硬突破に出た。
 ブロックの角に降り立って、狙撃に集中しているヘルヴェルト兵に狙いを定める。そして背後から忍び寄り、一瞬の隙をついて兵の意識を奪い去った。
「ドラグノフじゃない。いいの使ってんのね」
 ヘルヴェルト兵から強奪したライフルを手にして昂揚したスカーレットは、その重量をものともしないで激戦区へと向かって走りだした。



(――まいったな……。こんなトコで見失うなんて。聖、一体どこへ行ったんだ?)
 ヘルヴェルト艦の通路で、自分の進む先を窺いながら迷う野村は、不安そうに銃を構える。
 フェニックスを離れ再び戦場へ戻った野村は、戦場で敵を追うガーディアンの機体を発見した。それは群れを離れ、ヘルヴェルト艦へ向かって行った。
 野村はその機体を追って、激戦地であるヘルヴェルト艦へと着艦していた。
 パイロットとしての実力には定評のある彼も、白兵戦にはまるで自信はなかった。パワードスーツを降りてしまえばただの人。看護師にまで背負い投げで一本とられた苦い経験が、そのコンプレックスにさらに拍車をかける。
(あ、やだなぁ。だんだん後悔してきたぞ……。やっぱ外護ってりゃよかったかなぁ)
 白兵戦といえば海兵隊のイメージが強い。黒木や土井垣のような屈強な男たちと、対等に渡り合えるとはとても思えなかった。
(だいたい単身で敵艦に乗り込むなんて無謀すぎる)
 まだ聖の本性を知らない野村は彼の身を案じる。心配だから追ってきた。そんな単純な行動だったはずなのに、渦中に身投げしてしまったことに気付いて後悔する。
 突然、行く手から銃声が聞こえて来た。
 嫌な予感を抱きながら覗き込んだその先では、ヘルヴェルト兵がHEAVEN海兵隊との攻防戦を繰り広げていた。そして不幸な事に、覗いたその瞬間、弾倉を交換していた敵兵と視線が合ってしまった。
 驚いた敵兵は野村に向かって発砲した。
(――冗談じゃないっっ!)
 慌てて通路の陰に身を潜めたものの、反撃しなくてはやられてしまう。
 野村は心で涙を呑んで短銃を抜き、意を決して反撃に出た。
 一発の銃弾を返しただけで、雨のような銃弾が返ってきて野村はふたたび素早く身を隠した。
(もしかして、絶体絶命……ってやつ?)
 壁に押し付けた背中が、ズルズルと床に滑り落ちた。恐怖で膝が力を失って、立っていられなくなった。
 敵兵の向こう側には味方が居るはず。だが、彼等と合流するには目の前の敵を殲滅しなければならない。
 しかし、その前に自分が殺されてしまいそうな、そんなふうにどうしても悪いほうに考えてしまう。
 降り注ぐ銃弾が通路の壁面を破壊してゆく。そんな光景を目の当たりにして、彼は熱い弾丸の嫌な感覚を思い出した。
(死にたくない。……まだ、なにも)
 自分の気持ちを何も伝えていない。
 還りたい場所があって、生きて、また逢いたいひとがいる。
 もしかしたら、敵の向こうではそのひとが戦っているのかもしれない。
 野村は、戦わなければ生き抜いては行けない状況に置かれて、強い感情による全身の痛みを覚えた。
 そして、意を決してふたたび敵に銃を向けたとき、すぐ傍まで数人の兵が接近してきていた事に気づいて不利な状況を察した。
 それでも応戦を続けなければ万が一の運も向いて来ない。
 彼は必死だった。
 不意に、背後に人の気配を感じた彼は驚いて振り向いた。
 その瞬間、彼の頭上にかざされた自動小銃が弾丸を弾いて、ブロックの向こうに接近して来ていた敵兵をなぎ払った。思わず銃口を向けたその先には、真紅のパイロットスーツに身を包み、敵兵から略奪した複数の銃器類で完全武装したスカーレットが、硝煙を上げる自動小銃を構えて立っていた。
「なかなかいい根性してるじゃない」
 短銃一挺で抗戦していた野村の姿を見て、スカーレットはその戦意を認めて微笑んだ。
 長い黒髪を持つその頭に長く引き裂いた布を巻いて、多分頭部の負傷からの出血を止めているのだろう。からだに散在する小さな負傷からも血が滲んで、紅いパイロットスーツに黒く染みを作っている。微笑む唇のルージュが、白い肌に美しく映えていた。
 野村は茫然としてスカーレットを見つめた。
 決して重量級の戦士ではないこの美しい女性の、どこにこんな力があるのだろう。
 スーツを見ればHEAVENのパイロットではない事は分かる。しかし、意識を奪われたままの野村に、スカーレットは自動小銃を投げ渡した。そして、その横に陣取って敵陣を眺めながら野村に尋ねる。
「単身の潜入ってトコかしら?事情がありそうね、ボーヤ」
 その正体を知るため、抵抗できずにいる野村のパイロットスーツの襟を強引に広げて、認識票を引きずり出した。所属を確認したスカーレットは一瞬目を見張って、そして野村の顔をじっと見つめてから、ふたたび笑顔を見せた。


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