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楽園の紛糾
戦場3





 シヴァ空域の戦場にあるヘルヴェルト艦から、一機のパワードスーツが発進しようとしていた。
 新型機フリュ―ゲル.ツヴァイ。
 そのコックピットに、特命を受けたパイロットが発進許可を待っている。
「ルノー大佐。発進許可出ました」
 コントロールルームからの指示で、彼はエンジンのパワーを開放させる。
「了解。射出してくれ」
 カタパルトの秒読みに入った。
 エンジンが臨界点に達する。
 機体を固定するフックが外され、パワードスーツはカタパルトを滑りだした。
「ツヴァイ、発進する」
 感情の起伏を感じさせない、抑揚のない声がコントロールルームに告げられ、特命を受けたパワードスーツは艦体から射出されて戦場の中心である旗艦へと向かっていった。



 セレス周辺でヘルヴェルト軍と交戦していた聖は、圧倒的な戦力でゲオルグ部隊を制圧した。
 機動性、パワー、火力、そのいずれを取ってみてもガーディアンの優位は明らかで、加えて聖のセンスは群を抜いていた。
 そんな戦いぶりを目の当たりにしてしまえば、味方でさえ迂闊に近寄れない。
 巻き添えを食らうのは後免だとばかりに、エルフとガイアスはガーディアンを遠巻きにしていた。
 不意に、聖は予期せぬビームの来襲から、直撃を受ける危機を紙一重で回避した。
「誰だ?」
 正確な射撃に嫌な予感を覚える。
 高速で接近する敵を迎えるべく、ビームランチャーを構えるガーディアンの射程内に、躊躇する事なくツヴァイが飛び込んで来た。
「速い」
 ビーム砲を連射しても直撃しない。聖はランチャーを収納してサーベルを抜いた。
 高速で交差する機体から、ビームの粒子が放たれる。ツヴァイのサーベルをやっとの思いで払いのけた聖は、直ぐに敵の正体を追った。
「奴か?」
 覚えのある大胆な戦い方に、その正体を思い出す。
 そして、ふたたびその機体が接近戦を仕掛けて来た。
 ビームサーベルを交わし、力で圧し合う彼等は、互いのパイロットの正体を予感する。
「――おまえか?……ジャック・ルノー」
 聖の問いかけに、敵が反応する。
「何だ?……生きていたのか、ムトー」
 嘲笑するような声が返って来た。
「あのとき、とどめを刺してやればよかったな。あの状態で生きながらえるとは、よほど運が強い。総帥の名を聞いてまさかとは思っていたが、やはり貴様だったか」
「おまえから受けた屈辱と痛みは忘れてねーぜ。こんどこそ、おまえを墜としてやる。……念仏でも唱えてろ!」
 互いの力が反発して、機体が弾かれる。
「――恐れをなして前線を退いたのだと思っていたぞ」
「残念だったなあ。オレ様はそんなに可愛い気はねえ!」
 機動力の高い機体をもってしても、そのスピードには限界がある。パイロットの生体としての能力の限界が、彼等の力を互角にしていた。
「こんなところで遊んでいる暇は無い。悪いが、先に行かせてもらう」
「待てこの野郎っ!」
 特命を受けたルノーは、先を急いでいた。
 たかが機体の性能だけの新型と侮っていたが、その正体を知って彼は仕掛けた事を後悔した。
 彼は一刻も早くヘルヴェルト大統領を救出しなければならなかった。
「任務が終わったら、ゆっくり遊んでやる」
 聖の執拗な追跡はルノーを苛立たせるが、彼は旗艦でもある大統領専用艦へと向かった。



 艦隊戦の中心となっていたシヴア空域では、フェニックスとギャラクシアが応戦しながら哨戒艦艦隊と合流した。
「お杉っっ!……おまえは一体何考えてんねやっっ!」
 杉崎が遮那王にラインを繋ぐと、間発を入れずに一条が怒鳴り込んできた。弁慶がブリッヂにいたなら、当然『言語が乱れている』と指摘していただろう。
「おまえが火付け役になってどないすんねん!アウトローはオレだけで十分やっっ!」
 杉崎はがっくりと落胆した。
 よもや一条にまでそんな事を言われようとは情けない。
「違う。あれは俺じゃない」
 苦虫を潰したような表情が遮那王のモニターに映る。
「何者かがフェニックスのビーコンを偽造して仕掛けたらしい。俺は今ここに到着したばかりなんだ」
「――なんやて」
 一条の眉間がピクリと歪んだ。
「誰や?」
 一条の質問に答えたくない。知れば怒りまくるに決まっていた。
 だが、分からぬはずがない。
 ヘルヴェルトとHEAVEN。それ以外の勢力といえば、それはひとつしか無かった。
「クロイツか……」
 さらに険悪な表情が杉崎に向けられる。
 しかし、予想に反して、その表情はすぐに邪まな笑みに変わった。
「そりゃええ……。連中のゴタゴタはまだ続いていたんか……」
 内部事情を無視すれば、これで何の気兼ねも無く敵を叩き潰せる。
 和平交渉をエサにHEAVENの大統領暗殺を企んでいた。
 こじつけの解釈でそう受け取れるヘルヴェルトの動きに、一条は喜びさえ表す。
「……で、おまえはここに何しに来たん?」
 それもあまり答えたくはない。
 そんな杉崎の心情を知ってか、一条はさらにニヤリと笑った。
「オレらの討伐か?残念やったな。……もうそないな状況やない。せいぜいあのゲロ野郎どもを叩き潰すこっちゃ」
 自分の信念を貫いた事が正解だった。
 そんな自負が一条を昂揚させ、笑い声を残して一方的にラインを切って消えて行った。
「あの野郎。全く反省しとらんな……」
 杉崎の表情は渋いままだった。
 杉崎の横では、ジェイドが同様に渋い表情で、一条の消えたスクリーンを見つめていた。



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あきゅろす。
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