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楽園の紛糾
setuna6





 部屋に案内された野村は、キッチンカウンターをすすめられて脚の長い木製の椅子に腰掛けた。
 最近通い始めたパブレストランで声を掛けてきた彼は、その店のマスターから聖と親しげに呼ばれて常連のようだったが、野村が通い始めてからは初めて会った。
 聖の話では、しばらくツアーに出掛けていたためこの街にはいなかったらしい。
 ずっと黒木とは会っていない。
 フェニックスがHEAVENに戻って、艦を降りてからそれっきりだった。
 連絡先も知らないままだった事にその時になって初めて気づいた。
 海兵隊と航空隊では、同じ艦に在籍してはいても、地上勤務ではほとんど会う事はない。野村は、ふたりの間になんの約束もなかった事を改めて知って、無気力な日常を送っていた。
 あんな情熱を覚えてしまえば、独りでいる夜が寂しい。無性に人肌が恋しくなっていた野村の、ぽっかりとあいた心の空白を嗅ぎ付けたように聖は誘って来た。
 同年代に見えるルックスも声も、仕草まで好みだと感じた野村は、断る理由もないまま彼の誘いに応じた。
「酒……バーボンしかないけど、いいか?」
「うん。ありがとう」
 差し出されたクラッシュアイスが入ったグラスを受け取り、注がれるウイスキーを眺める。琥珀色の液体に氷が解け出して、液体の中に繊細な模様を描き出す。
 野村はそれを一口含んで、香りと味わいを楽しんだ。
「これ旨いね。香りもいい」
 野村はすぐにもう一口含んだ。
「だろ?ツアー先で仕入れて来たんだ。……つまみは」
「いいよ。……つまみは聖がいい」
 カウンターの向こうで下を向いてゴソゴソと探す彼を、野村はそう言って赤面させた。
「いいのか?ホントに?」
 聖はぼんやりとその場に立ちつくす。
「だって、そのつもりで誘ったんだろ?」
 頬杖をついて聖を見上げる野村は、少しだけ大胆に視線で誘った。
「こっち来てよ。話しよう。……それとも、すぐベッドに行く?」
 聖は、野村の誘いが信じられないといった表情でしばらく茫然としていたが、すぐにベッドへの直行を選択した。



 体格が近いふたりは、ぴったりと肌を合わせて縺れるようにシーツの波の中にもぐり込み、貪るような接吻で互いの高揚した感情を確かめ合った。
 透けるような淡い色彩の聖の髪が、柔らかく野村の肩を撫でる。
 互いの表情を確認するように見つめ合うとき、すみれ色の瞳が野村の姿を映していた。
 どう見ても日系人には見えない彼は、それでも自分は日本人だと言う。
 瞳の色は、以前事故に遭った時に人工の網膜を移植したからだと話してくれた。
 聖は美しかった。
 ひとの手によって造り上げられたようなその姿は、野村でさえ信仰に近い感情を覚える。
 けれど、温かい体温と、微かな香り。そして、しっとりと汗ばんでくる肌は、まぎれもなく生きている人間の証しで。聖の美しい顔が快楽に溺れて行く様に、野村は情欲を煽られた。
「タカ……いい。……すごく、上手いんだね」
 喘ぎながらつぶやく聖の声が、野村をさらに熱くさせる。
 こうやって誰かを抱くのは久しぶりで、しかもすこぶるつきの極上の相手だ。
 野村は、聖を抱くのが嬉しくて。その悦ぶ顔が見たくて、全身全霊で情を注いだ。
 全てを余す事無く愛する野村に翻弄されて、聖は堪らなくなって誘う。
「お願いだ……もう、来てくれよ」
 懇願する聖を見て、愛しさが込み上げる。
 勿論、そうしたいのは自分も同様で、すっかりそんな気分で高揚している。
 聖は、野村の熱くなった部分に、コンドームと滴り落ちそうな程のローションを施した。
「来て、タカ」
 野村にくちづけて艶然と微笑む。
 野村は誘われるまま、聖の狭い部分を圧し広げて、その体内に自身を穿った。
 僅かな抵抗だけでやんわりと迎え入れた聖の体奥は、熱くなった野村をさらに熱くする。
 抱かれるのが上手だと思う。慣れているのだろうけれど、聖の身体からは他の男の痕跡がまるで見当たらない。それも、彼の良さだと野村は魅了された。
 ゆっくりと押し上げていくと聖が締め付けてくる。その圧が心地よくて腰をゆるりと動かして、円運動を繰り返した。それは互いに快楽を与え合い、徐々に興奮を高めた。
「――ん…ぅ……」
 漏れる吐息と声までもが、嬉しいくらいに野村の好みだ。
「っあ!……いい。タカ」
 しがみつく腕が抱き寄せて、野村の動きを封じてしまう。それを拒絶する事が出来ず、どう仕様もなくて。野村は聖に接吻を贈ってから今度は背後から聖を抱きすくめた。
「可愛いね……。聖」
 耳元にささやいて、ふたたび接吻を贈る。
 自由になった指で、聖の敏感で一番心地よい部分まで愛撫する。そうすると、聖はたちまち昇り詰めて熱く反り上がった先端から透明な滴を零した。
「あ……タカ……タカっ!……だ…め……い、…や、う」
 最高の快楽を享受しながら、聖は野村よりも先に達してしまう事を恥じるように嫌がる。
 けれど野村はその手を離す気はない。さらりとしていた肌がしっとりと汗ばんで、それがたまらなく愛しくて大腿を手のひらでそっと撫で上げる。
「ダメ……やぁっ!」
 全てが快感に繋がってしまう聖の状態が嬉しい。
 野村はクスッと笑って、ふたたび聖の身体を深く貫いた。
「ああっ」
「いいよ。これで僕も……安心していける」
 そんなふうに聖を包む微笑みは、聖を安心させた。
「タカ……タカっ!いい……きもち、イイっ!」
 初めてのはずなのに、もうこんなにも相手を求めている。
「僕も、気持ちいいよ。……聖」
 きっと相性がいいのだろうと思う。
 野村はそんな事を考えながら、その快楽を拓く行為を存分に楽しんだ。



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