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楽園の紛糾
LIFE9





「諒。もう、カンベンして」
「どうして?……嫌ですか?」
「だって俺、もう何にも出ないよ」
 既に、何度達してしまったか覚えていない。幾度となく求められて、橘は骨抜きの状態だった。
 当直明けでやって来た西奈は、少しだけ休んでから、ずっと橘とともにベッドの中にいる。
 橘は、もう何時間も服を着せてもらえないでいた。
「でも、ちゃんといけるでしょう」
 紅い徴を遺した背中にキスをして、露な外腿を撫でてさらに誘う。
「カラ撃ちじゃあなぁ……。何だかもう気持ち良すぎて切ないよぉ」
 抱きしめると、長い髪が西奈の肩に絡んでサラサラと撫でてゆく。その心地よい感触に誘われて、西奈はさらに橘の項をペロリと舐め上げた。
 ゾクゾクとする快感が橘の背中を走る。
「こんなに濡れているじゃないですか」
 硬く立ち上がったその先端を指先でなぞりながら、滑らかな体液を指に絡ませる。
「仕方ないだろ。生理的反応なんだから」
「そうですか?」
 もう一方の指が、橘の胸を刺激すると、その小さな突起はさらに硬く立ち上がった。
「あ……。んぅ」
 ピクンと一瞬身体を強ばらせて、快感を告げる。
「ここは、生理的反応だけではないみたいですよ」
 西奈は背中から抱き締めていた橘の身体をシーツの上に押し付けた。
「よほど丁寧に愛されないと開花しない……。ここもそうです」
 既に何度かの情交の後で、やんわりと開いている部分に指先を入れて、中の快楽を刺激する。
「や……」
「誰があなたをこんなふうにしたんですか?」
「何言ってんだよ。そんなのおまえしかいないじゃないか」
「違います。自分が抱いたときには、既に知っていました」
「それ……って。もしかして妬いてるの?」
 橘は困惑した。
「俺の過去の女関係にいちいち嫉妬してたら、身がもたないぞ……」
 橘の指摘で、西奈も困惑していた。
 自分もひとの事をとやかく言える立場ではない。だが、どうしても気になって確かめたい事があったのだ。
「女ならいいんです。気になりませんよ」
「まさか……男だなんて言わないだろうな?」
 情けなく変化した橘の表情に、西奈も同様の表情で応えた。
「ええっっ? おまえ、俺に男いるって思ってたの?」
「……だって」
「カンベンしてくれよお。俺、初めてだって言ったろ? おまえ以外の男なんて知らないよお」
 橘は西奈の身体を押しのけて起き上がった。
「身体開発されてたって仕方ないだろ。大人の女なんて、男抱くの上手いんだから……。その辺のコムスメと一緒にすんなよ」
 その辺のコムスメとしか経験した事のない西奈には分からない。それは新鮮な驚きだった。
「あんな……ところまで、ですか?」
「全身くまなくだよ」
 西奈は唖然とした。
 そんな男女関係があるだなんて知らなかった。
「じゃあ……沢口さんとは」
「ええっっ! ……おまえ、そんな目で俺たちを見てたのかぁ?」
 彼等にとっての普通の仲睦まじい姿は、はっきり言ってそうとしか見えない。
 けれど、橘はがっかりしていた。
「そんなんじゃないって……。だいいち沢口にはちゃんといいひとがいるんだ。俺との事を誤解されたらあいつこそいい迷惑だよ」
 西奈はそれを聞いて安心した。
 沢口との仲が気になっていたが、これで晴れて橘が自分だけのものだと実感できる。
「どうしても気になったものですから……。自分でもどう仕様もなくて」
「俺は、何もかもおまえが初めてなんだから、あんまり変な事言うなよ。なにげに傷つくぞ」
 落ち込み加減に言う橘を見て、西奈は狼狽(うろた)えた。
「すみません。自分も、こんな事は初めてで……。こんな感情も……」
 強烈な独占欲が支配する。そんな内面は知られたくなかった。
「許してください」
 自己嫌悪に陥るような西奈の姿に同情する。
 橘はうつむく西奈に、そっとくちづけで返した。
 今まで独身主義で、ひとりの相手に固執する事などなかった。
 守る者をつくらずにいた西奈が、初めて自分で守りたいと感じた存在。
 それだけに心の在り方は不器用で、橘はそんな西奈の弱さを感じ取っていた。
「許してやる。……それ程俺が好きなんだって思うから、許してやるよ」
 向けられる微笑みに許されて、西奈はまた欲情した。
「橘さん」
 橘はふたたび西奈に押し倒された。
「もう、どうしようもなくあなたが好きです」
 情熱的なキスが橘に贈られる。
「僕はもう、あなたしか見えない」
「諒……」
 全身が既に満足しているにもかかわらず、どうしてもまた受け入れてしまう。本当は、西奈に触れられるのが心地よくて、ずっと抱いていて欲しいと思う。
 橘は目を閉じた。
「おまえばかり先走るなよ。俺の気持ち、置いて行かないでくれ」
 硬く窄められた舌が、胸の突起を転がすように愛撫する。
 時折強く吸い上げられて、快感が身体の中心に集中しはじめた。
「もっと、俺を夢中にさせて。……壊れちゃうくらいにさぁ」
 喘ぎながら西奈の愛撫に溺れてゆく。
 身も心も情熱で満たされて、橘は幸せに溶けてしまいそうだった。
「おまえを好きでいたい……。諒」
 決して自分の想いを裏切らないで欲しい。
 西奈に傾いた橘の心は、西奈の情熱を知っていながら、まだ不安に脅えていた。
 賭け引きもなにも要らない、無防備な愛が欲しい。
 自分が夢中になれる、西奈の情の全てが欲しかった。
「橘さん」
 愛しくて堪らない。
 そんな瞳で、西奈は橘を見つめた。
「ちゃんと名前呼んでよ。そんな距離おかないで……もっと、近くに……」
 快楽に潤んだ瞳で橘が返す。
「翔……?」
 そっと、その名を呼んでみた。
「うん」
 幸せそうな笑顔が返ってくる。
「――翔」
 耳元で囁かれるその熱さえ心地よくて堪らない。橘は西奈にやんわりと縋りついた。
「諒。好きだよ」
 西奈は既に歯止めの効かない感情を解放した。
 遠慮は要らない。
 橘が全身でそう伝えてくれている。
「愛してる、翔。僕は本当に、あなたを壊してしまいそうだ」
「いいよ、諒。もっと……して」
 橘の囁きが西奈の耳元を熱く濡らす。
 西奈は許しを得て、橘とのくちづけを貪った。
 長い癖のない髪がシーツに乱れて広がる。
 妖しいほどの橘の姿態は、それだけで若い情熱を淫らに掻き乱した。
「ん……諒。早く……欲しいよ、おまえの……」
 そんな言葉だけで不意に達してしまいそうになる。
 西奈は誘われるまま、橘の中に自身を埋めた。
 何度繋がっても、その度に橘の身体は深い快楽を掴んでゆく。
 最早それ無しではいられない程に変えられてしまった身体は、西奈にぴったりと馴染んで離れない。
「気持ち、い!っ……。俺、すごく……淫ら、になって…しまった。……おまえの、……せいっ…だ」
「もっと、乱れてください。もっと愛してあげるから……」
 奥まで貫いて蠢くそれは、ふたたび橘を熱くする。
 既に中からの刺激だけで達してしまいそうな快楽を掴んで、橘の屹立した先端が快びに濡れて震えていた。
「――早く…ぅっ、イ、カ…せて…!…っ!」
 もっと激しく愛して欲しい。
 強い刺激で導いて欲しい。
 橘の快楽が、早く爆ぜてしまいたくて焦れていた。
「我が儘な身体ですね。さっきまで食傷気味だったはずなのに……」
 腰を揺らがせて唇を啄む。
 悪戯な笑みが、乱れて絡んでくる橘に満足していた。
「お…まえが!…こ…、した…っ!ん、だ…。責…任と…れ」
 涙目で訴える橘が、愛しくて可愛くてたまらない。
 トロトロと溢れ出る愛液が、丸みを帯びた先端からスラリと上反る茎を伝って下草を濡らす。
「喜んで……」
 西奈は蠱惑的な微笑みを見せて、橘に深く穿って押し上げてから、舌の根まで吸い込むような深いくちづけを与えた。
「ふ…ぅ、ん…んんっぅ…っ…!!」
 強い圧迫と刺激で、途端にビクビクと戦慄き始めた橘は、とろりと薄い白濁を洩らしただけで、甘く喉を鳴らして深い愉悦に囚われた。




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