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楽園の紛糾
LIFE5





 朝になって西奈と交替していた城は、夕刻の交替時間になっても次の交替者が現れないのに気づいていた。
 しかし、次の交替者は沢口と聞かされて、本当に彼が現れるのかが疑問だった。
 危険な状態でメディカルセンターに運ばれて来た沢口が、もう勤務に復帰するなど本当に可能なのだろうか。
 そんな事を考えていると、ブリッジに杉崎が現れた。
「城。まだ交替していなかったのか?沢口はどうした?」
「あ、いえ。……まだ」
 沢口を案じて言葉を濁す城の思いを察して、杉崎は呆れた。
「呼び出してみたのか?」
「いえ。本当に勤務できる状態なのでしょうか。……なんだか、コールするのも申し訳無くて」
 城の遠慮に、杉崎はさらに呆れて何も言えない。
 杉崎はふたたびブリッジを後にした。
「待っていろ。今沢口を連れて来る」
「あっ!あの……。きっと遅れたのには理由があるのだと思います。叱らないでください」
 城の縋る視線に、杉崎は苦笑を誘われる。
「おまえも相当なお人よしだな……」
 杉崎はそう言い残して去っていった。



 沢口の個室にやって来た杉崎は、ためらいなくマスターキーを使って室内に侵入した。
 沢口に対しての監督者兼保護者となった杉崎にとって、もはやなんの遠慮も必要なかった。
 案の定、沢口はベッドでぬくぬくと惰眠を貪っていた。
「起きろ!今何時だと思っているんだ!」
 杉崎は毛布を剥ぐって、沢口を起こしにかかった。
「んだよぉ〜……」
 寝ぼけた顔で時計に目をやってから、沢口は不機嫌そうにふたたび杉崎から毛布を取り返してもぐりこんだ。
「まだ5時じゃねーかよ……。勘弁してくれよぉ」
 ぶつぶつ言い返して、ふたたびぬくぬくと丸まってゆく沢口の背中を杉崎の足が踏み潰した。
「ぐえっっ」
「いつまでストリートボーイの気分でいるんだ?ここがフェニックスだとちゃんと自覚してんのか?コラ!」
 その聞き覚えのある声に、沢口は現実へと引き戻される。
 おそるおそる振り返ると、そこには眉間に縦皺を寄せた杉崎の不機嫌そうな顔があった。
(……まずい)
 沢口はここがフェニックスという事をすっかり忘れていた。
 しかし、街で下手なプライドをつけてしまった彼は、素直に謝る事すら出来ない。
「だって俺……。今までは深夜のお仕事だったから」
 脅えながら応える沢口に、杉崎はさらに眉間の縦皺を深くした。
「とっとと服を着ろ!」
 杉崎の怒号に飛び上がって起きた沢口は、叩きつけられたユニフォームを身に着け始める。その間も杉崎はイライラしながら待っていた。
「艦長。……自分ひとりで支度くらいできますから。もう……」
 イライラした恐ろしい形相でこれ以上睨まれたくはない沢口は、そう言って杉崎を追い払おうとしたが、その言葉に反応した杉崎はピクリと眉を動かすと、さらに不機嫌な形相で沢口を睨みつけた。
「――もう、何だって言うんだ?」
「……いえ、その……」
 静かに重低音を効かされるのもはっきり言って怖い。沢口はうろたえた。
「さっさと着ろ」
「はい」
 ユニフォームの上下を身につけて靴を履くと、沢口は間発を入れずに室内から叩き出された。
「顔くらい洗わせてくださいよお!」
「やかましいっ!いつまで城を待たせておくつもりだ」
 そうだった。自分がブリッヂに出頭しない限り城は拘束から解放されない。
 沢口は思い出した。
 それなのに、どうしても素直になれない自分がいた。
 杉崎からの予想外の仕打ちに不機嫌になる。
「ハラ減った!」
「寝坊する貴様が悪い!」
「昼近くまで眠れなかったんだ」
「だぁーっっ!イライラする!!」
 グズグズと文句を並べたててなかなか先へ進まない。
 業を煮やした杉崎は沢口を持ち上げて強引に脇に抱えた。
「え!? ちょっ……。なにやってんの!? 降ろしてよ!」
 そんな沢口の動揺には、もう聞く耳を持ちたくない。
 杉崎はさっさと歩きだした。




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