楽園の紛糾
LIFE1
7 LIFE
軍用通信衛星から得た大統領専用シャトルとセレスの交信内容から、和平交渉の場がシヴァ空域に定められた事が明らかになり、遮那王は一路シヴァへと向かっていた。
聖は、一条と同様に和平交渉を何とか阻止したかった。そのためには一条を引き留めて、さらに大統領とのコンタクトを取らねばならない。
フェニックスとギャラクシアは遮那王を追ってシヴァ空域に向かっていた。
シヴァ空域に到着するまでの長い時間を、聖はイライラしながら持て余す。
そんな状態はジェイドにとっても落ち着かない。
少しでも気が休まるようにと湯を沸かしてフレーバーティーを淹れていた。
「総帥、少しお休みになられてはいかがですか?ナーバスに過ごされていても、到着時間は変わりません」
ジェイドのもっともらしい指摘は、聖の感情を更に逆撫でする。
「休めるんならとっくにそうしてる。ああ、もう!イライラする」
聖は苛立った様子で、端正に整えられた亜麻色の髪を掻き毟った。
「こんな時こそ、愛しいお方とお会いになるとよろしいのでは?」
「お会いになれないからイラついてんじゃねーかっ!あの野郎、タカを独り占めしやがって。見つけたらただじゃおかねえっっ!」
聖は語気を荒げて悔しさを訴える。
ジェイドは深くため息をついた。
「黒木さんにみすみす渡してしまったのですか?」
士官室に豊かな香りが満ちて来る。ジェイドがいれる紅茶の桃の香りは聖の苛立ちを少しだけ和らげた。
「ちょっと目ぇ離した隙に抜けがけされたんだ。あいつに渡す気はねーよ」
渡されたティーカップから立ちのぼる香りを含むと、不思議とくつろいだ気分になってくる。ジェイドは聖の慰め方もよく心得ていた。
「だけどなぁ、こんな調子で本当に交渉に間に合うのかなぁ」
紅茶を一口飲んで、ため息まじりにつぶやく。
苛立ちが少し落ち着いてきた。
「大丈夫ですよ。フェニックスのスタッフは優秀との評判です。……まあ、本当かどうかは少し怪しく思えて来ましたが」
ブリッヂの混乱ぶりと砲術長の体たらくを目の当たりにして、ジェイドは少し不審を抱いていた。
「――杉崎にも会ってないし」
「ああ。彼にはお会いしました。思った通り、なかなかの者でした」
聖は横目でジェイドを見た。
「何が『なかなか』なんだ?まさかもう早手ぇ出したんじゃねーだろーなあ?」
鋭い洞察を向けられてジェイドは狼狽した。
「いえ、あんな状態でもブリッヂに向かって来る姿勢が……」
「……拒まれたんだな?」
聖はジェイドの否定をあっさりと却下した。
杉崎に手を出したと見透かされている。ジェイドは誤魔化しがきかない事を悟り、負けを認めた。
「すみません」
ジェイドの赤面を見て聖はニヤリと笑った。
何が気に入ったのかは分からないが、こと杉崎に関しては本当に弱いようだ。
聖はジェイドの弱点を知って嬉しくなった。
「可哀想になぁ。最近、あんまりいい思いしてないだろう?」
満足そうに紅茶を飲み干して嬉しそうに天使のような微笑みを向ける。
「お互いあぶれた者同士、仲良くやろうぜ」
聖の微笑みが邪まに見えて、ジェイドはあまり嬉しくはなかった。
「だいたいこんな所にじっとしているから気持ちが塞いでくるんだ。少し身体にいい刺激を与えてこようぜ」
聖が思い立って立ち上がると、ジェイドは驚いて後を追った。
「総帥。こんな所でのご乱行は……」
「バーカ。んなコトするかよ。……ここにはシミュレーターがあるだろう。それで遊んでくる。おまえも来いジェイド」
いつになく健全な発言に、ジェイドは真偽が分からないまま聖の後を追って行った。
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