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楽園の紛糾
Triangle5





 艦長室に立ち寄って艦長用のユニフォームを失敬した次郎は、ついでにメディカルセンターへ立ち寄った。
 兄の様態を響姫から聞き、本当にただの過労だと知って安心する。
「では……よろしくお願いします」
 兄を託して去ろうとした次郎は、響姫に引き留められた。
「おまえも治療が必要だ。そんなナリで、一体どうしたんだ?」
「いや、ちょっとね。カッコ悪いから、聞かないでくださいよ」
 苦笑して応える次郎を響姫は案じた。
「おまえ、遮那王は……」
「……追い出されたんで、これからギャラクシアに赴任します。治療はギャラクシアで受けますから、大丈夫です」
 自分を案ずる響姫の優しさに触れて、安心をもらった次郎は、新しいユニフォームを肩にかけてメディカルセンターを後にした。
「ジロくん!」
 メディカルセンターを出てすぐに、次郎はふたたび引き留められた。
 振り向くと、そこには看護師の里加子が立っていた。
「やっと会えたのに、また黙って行っちゃうの?船を降りたら、全然会えないなんて……どうして?」
 里加子の視線が次郎を責める。
 必死に引き留めようとする思いが伝わる。
 けれど、その気持ちを受け入れる事はどうしても出来なかった。
「俺は、ここだけの事だと思っていた。違うのか?」
 次郎の返事を聞いて、里加子は唖然とした。
「なに?……それ」
「おまえも割り切っていたんじゃないのか?」
 次郎の視線が冷たい。里加子は理解できなくて動揺を見せた。
「ひどい……」
 涙が零れてくる様を見て、次郎は自責の念を抱く。しかし、下手な言い訳も謝罪も、かえって残酷な結果を生むだけだと次郎は思う。
「誘われるまま付き合ったけどな。そういうモンだと思っていたし、おまえもそうだと思っていた」
「違うわ!わたし、ジロくんが好きだったから……。誰にでもあんな事したりしない!」
 里佳子の気持ちが向けられるほど胸が痛む。
 しかし、いまさら良心の呵責も無いもんだと自嘲した。
「なんの約束もしてくれなかったけど、あんなに尽くしたのに。最低……」
「そんなに気に入らなかったんなら、さっさと切ればよかったんだ。……こんなサイテーな男に付き合ったのはおまえの不幸だったよな。早く忘れろよ」
 里加子の平手が次郎の頬に飛んできた。それは、遮那王でさんざん殴られた跡に当たって、次郎は悶絶した。
「いってぇ――っっ!何すんだよ!」
「あんたってホントにサイテー!少しでもいいなんて思ったあたしがバカだったわ!」
「おまえだってさんざん楽しんだんだ。エラそうな事言うな」
「なによっっ!あんたなんかいつも自分勝手で、テクなしのくせに!」
「なんだよ。いつもシーツまで濡らしてたのどこの誰……」
「黙れドスケベっ!」
 ふたたび次郎は里加子に殴られた。
 里加子は怒って泣きながら、メディカルセンターに向かって駆け出した。
「痛っ……。グーで殴るなよ……」
 里加子の拳を頬に受けて、次郎はさらに痛みに悶絶した。
 彼女にはきっと、これよりもずっと大きな痛みを抱えさせてしまったに違いない。
 次郎は、心の痛みと身体の痛みに全身を軋ませて、フライトデッキへと向かった。



「――隊長!どこへいくの!」
 ヘリコプターに乗り込む次郎を見つけて、ハンガーで待機していた森が慌てて駆け寄って来た。
「隊長じゃないって言ったろ」
 次郎はすがりつく森を優しく包んだ。
「俺はギャラクシアへ行く。……傍にいてやりたいが状況がこれだ。許してくれ」
 次郎の大きな手が森の頭を撫でた。温かくて心地いい優しさを与えられて、森の不安が和らぐ。
「どうしてギャラクシアに?フェニックスでも戦えるじゃない」
「出戻りはカッコ悪いって……。ここはもう俺の居場所ではないんだ。今の俺は、とりあえずはギャラクシア艦長だから。そっちの指揮をとらないとな」
 微笑みを返す次郎を、森は驚いて見つめた。
「艦長?」
「押しかけだけどな……。必ず迎えに来る。それまで待っていろ」
 安心して待っていていい。
 そんな視線で次郎は森を促して別れを告げてから、ヘリコプターを発進させてギャラクシアへと向かった。
 森は状況の全貌が理解できないまま、すがるような視線を向けて次郎を見送った。



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