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楽園の紛糾
Triangle1



4. Triangle



 遠くから聞こえてくる爆音に、浅い眠りから引き戻された森は、まだはっきりと覚醒しないままその聞き覚えのある音を聞いていた。
(……ヘリ?)
 ヘリコプターのローターの音が、次第に近くなる。
 隣にいたはずの武蔵坊の姿が無い。
 森は嫌な予感を抱いて跳び起きた。
 部屋を見渡しても彼の痕跡がない。
 森は、ベッドから降りて急いで衣服を身につけてから、ウオールライトの仄かな明かりに照らされているデスクボードに残された置き手紙を見つけた。
 そこに残された武蔵坊のメッセージに驚いて、森は部屋を飛び出した。


――親愛なる森少尉どの


 階段を駆け降りて、勢いよくドアを開けて外へ飛び出す。草原のむこうに、サーチライトの光が見える。森は丘に向かって走りだした。


――どうしても戦を選んでしまう勝手な男の事など、どうか忘れてほしい。


「弁慶っっ!」
 ローターが引き起こす強い風が近づいてくる。丘の上の草原にヘリコプターがローターを回したままで着陸しているのを見つけて、森は全力で追いかけた。


――純粋な君の笑顔が嬉しかった。しかし、自分がそんな笑顔を向けられるに相応しい男ではない事も分かっている。


 サーチライトの逆光の中に長身の人影を見つけた。武蔵坊の姿だと直感する。
「弁慶ーっっ!!」
 爆音にかき消されているはずの声が、武蔵坊に届いた。
(――蘭丸?)
「追ってきますよ。いいんですか?」
 迎えの者が武蔵坊に訊ねる。
「いいんだ。行こう」
 武蔵坊はヘリコプターに乗り込んでいった。


――せめてもの償いに、君が一番求めていた彼の人との事を、陰ながら応援したい。いつも君の幸せを祈っている。
 遮那王副長、武蔵坊弁慶


「弁慶――っっ!!」
 海に面する丘の上に辿り着いた時には、ヘリコプターは離陸して行ってしまった。それでも追い続ける森の一途な姿を上空から見下ろして、武蔵坊は残して来た想いに終止符を打つ。
 戦場が自分を待っている。
 そう自分に言い聞かせて、不必要な情を断ち切った。
 森は、視界から消えゆくヘリコプターの機影を見つめながら、とめどなく涙が零れ落ちてくるのを止める事が出来ない。
 草原には、ふたたびやわらかな海風が戻って来た。
 ずっと傍にいてくれると信じていた。それなのに、突然去って行ってしまうなんて。
 森はそんな慟哭と戦いながら立ち尽くした。
 けれど、失意と悲しみが森を包んでも、それでも森は諦められない。
 ふたたびコテージへ駆け戻ってから、乗用車に乗り込んで来た道を戻る。
 携帯とナビゲートシステムを使って、武蔵坊が向かうはずの場所を予測した。
 森は、ヘリコプターが向かうであろうセントラルの商業港へと、ハイウェイにのって車を走らせた。



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