楽園の紛糾
傷心11
街の空は既に闇に包まれて、地上は対照的に色鮮やかなイルミネーションで彩られていた。
情報を提供され、6丁目の通りに立った杉崎は、その様子に圧倒された。
女性の姿などどこにも見当たらない。女人禁制の男だけの街。
こんな世界を初めて目の当たりにして、杉崎は途方に暮れていた。
「――ねえ。ひとり?それとも誰かと待ち合わせしてるの?」
杉崎の横からひとりの男が声をかけて来た。
いつもの癖で少しだけ斜め下に視線を向けると、質の良い寒色系のネクタイの結び目が目に入った。少しだけ視線を上げて真横を向いても喉仏しか見えない。
杉崎は戸惑いながらゆっくりとさらに視線を上げた。
視線の先で、金髪の碧い目が微笑んでいる。
杉崎は困惑した。
「綺麗な黒髪だね。シルクみたいだ」
その言葉の意味を予想出来るだけに、図らずも赤面してしまう。
「よかったら一緒に飲まないか?……おごるよ」
おごられた後、自分はその礼を身体で支払う事になるのだろうな。と、難なく想像できた。
そんな事を予測出来るようになった自分がなんだか情けない。
今まで、自分が同性の性的対象になるなどとは夢にも思っていなかったが、最近そうでもないらしい事に気づいてなんとも複雑な気分だった。
そして声がかかってしまう自分自身もまた、そんな雰囲気を醸し出しているだろうと思うと自己嫌悪に陥ってしまう。
杉崎は事情を話して丁寧に誘いを断った。
そして、沢口の消息を尋ねてみると、彼は親切に対応して情報を提供してくれた。
「ありがとう。助かります」
「いや……。その彼、恋人かい?」
難しい質問を向けられて杉崎は一瞬言葉を失ったが、多分一番無難であろう答えを返した。
「まあ、そんなところです」
「何があったかは分からないが、そんな大切なひとを、いつまでもここに置いておくのは心配だよ。中にはタチの悪い連中もいる……。早く見つかるといいね」
彼は柔らかな笑顔を残して去って行った。
いい男だな。
杉崎はそう思ってから、そう思ってしまった自分の思考を修正した。
性的な魅力について思った訳でもないのに、変にこだわってしまう。
親愛の情と性的な情の境界線をはっきりさせられない未熟な自分を早くなんとかしたい。
弟に偉そうな事を言っておきながら、その実、自分自身もまだはっきりさせられないで迷っている。
杉崎はそんな揺らぎを抱えたまま、彼に教えられた店を訪ねる事にした。
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