楽園の紛糾 傷心10 「雅さん。奴をよく6丁目あたりで見かけるってネタが入りましたよ」 『そうか……。じゃあちょっと捜索してみてくれ。何かあったら、連絡よこせよ。あと、おまえの傍に誰かいるのか?』 「え?あの……篤士さんが……」 『なら大丈夫だな。その辺は物騒だから、気をつけろよ。篤士にはくれぐれも騒ぎを起こすなと言っておけ』 「了解」 フェニックス海兵隊は黒木の命令で沢口の搜索に乗り出していた。 湊は通話を切って土井垣を見た。 「なんだ?」 湊の視線に気づいて土井垣が訊ねる。 「騒ぎを起こすな……ってさ」 「なんだとぉ、コラア!」 土井垣はやおら不機嫌になって、湊にヘッドロックをかける。 身長が高い湊でも、2メートル近い大柄な土井垣には敵わない。 「イテッ!俺じゃねーっスよ」 「八つ当たりだ。バーカ!」 その時、無意味にじゃれあうふたりを見つけた海兵隊員の関ヶ原が、通りの向こうから全速力で駆け寄って来た。愛しい湊が、他の男とイチャついているのは我慢できない。 「湊っっ!」 自分の名を叫ばれて、湊はヘッドロックされたまま視線を移して声の主を確認した。 「――げっっ。関」 「おおっっ!飛んでくるぜ」 土井垣が気付いたときは、湊は関の腕の中だった。 「おまえっ!自分のノルマはどーしたよ!」 手分けをして沢口の捜索にかかっていた彼等は、それぞれの捜索範囲を決めて臨んでいた。関は氷川と組んで捜索していたはずだった。 「んなのとっくに終わってら……。湊〜〜!」 相変わらず暑苦しい奴だと呆れながら、土井垣は早くこんなところから帰りたくてふたりを引き離した。自分も早く葵に会いたかったのだ。 「オラ!サカってんじゃねぇ!さっさと沢口見つけて撤収するぞ!」 ベタベタくっついて仕事にならないだろうと予想してふたりを別にしたのに、結局はこのザマか……。と、土井垣は何故か悲しかった。 「氷川は?」 関から解放された湊は、片割れの所在を訊ねた。 「……いるっス」 いきなり土井垣の後ろから声がした。氷川は騒がしい関とは対照的で、大きな身体の割には物静かで彼等の中にいると存在感が薄い。 しかし、街中では彼等は全員目立つ存在だ。 秀でた体格の男たちが公衆の面前でじゃれ合いイチャつき合う姿は嫌でも人目を引く。 「センパイ……。注目浴びてるっスよ」 氷川の指摘で土井垣は周囲を見渡した。確かにいろんな意味を含んだ視線が集中しているようだ。 「俺たちが目立ってどーするよ。行くぜ、6丁目」 土井垣が促すと、周囲にクスクス笑いが生じた。 ほら……やっぱりそうよ そんな声まで聞こえて来る。 セントラル一番街6丁目通り。 そこは男による男のための、男だけの色街だった。 さすがの土井垣もなぜか赤面してしまう。 一行はさっさとそこを離れて6丁目界隈へと向かって行った。 [*前へ][次へ#] [戻る] |