楽園の紛糾
傷心5
「艦長!……ご自分のしている事を、判っているのですか!」
遮那王は前副長である武蔵坊弁慶を迎えるために、HEAVENへと向かっていた。ブリッヂだけではなく、艦全体がヘルヴェルトとの和平交渉妨害に乗り出している中、副長杉崎次郎は一条艦長へと進言した。
「我々は国の決定には逆らえない。命令違反は重罪です!」
「うるせーぞジロ。俺たちはなあ、あのゲロ野郎どもと馴れ合う気はさらさらねえんだ。大統領の勝手にはさせん」
次郎は唖然とした。
命令系統もなにもかもを無視したやり方は、独善的で勝手過ぎる。
ましてや哨戒艦の艦長ともあろう者が、そんな暴挙に出るなど信じられなかった。
「それは謀反です!」
「上等だ。……ジロ、おまえも往生際の悪い事は止めとけ。遮那王なんぞに配属されたのが運の尽きだったんだ」
揶揄を含んだ笑い顔を見て、次郎は決意して通信席へ向かった。
「貸せ」
通信士から受信機を奪うように取って、周波数を調整し始める。
「何するんで?」
「本部に報告する」
「なにっ!」
次郎の答えに、ブリッジの全員が呆気にとられた。
「そいつを取り押さえろ」
一条の命令が下り、次郎はオペレーターたちに、通信席から引き離された。
「離せ!こんな謀反は認めない!たとえ艦長命令だとしても、俺は認めないぞ!」
「結構な正義感だな」
羽交い絞めされる次郎に、一条が近付いた。
「だがな、俺はクロイツを抱えているヘルヴェルトなんぞは絶対に信用しねえ。どうあろうと、敵は敵なんだ。条約を結びましょう、はい仲よくしましょうなんておためごかしには反吐が出る!」
一条の双眸が次郎を威嚇する。彼には彼の信念があった。
「誰も、あんたのやろうとしている事を褒めちゃくれないぜ」
次郎の言葉で一条は失笑した。
「おまえは、誰かに褒められなけりゃ何もできねーのか?」
一条の嘲笑が次郎を黙らせる。
「監視房にぶちこんでおけ」
一条の命令で、次郎はブリッジから連れ出された。
「……あんたの独断で、哨戒艦全体がHEAVENの敵にまわるんだぞ!そんな事が許されるのかっっ!」
次郎の叫びがブリッジに残る。
一条は苦笑した。
「――今度の副長は随分と熱血な野郎ですね。艦長」
パイロットが一条に話しかける。
「仕方ない。あいつはフェニックスのエリートさんだから……」
そう言いながら、それでも一条は次郎の反骨精神に頼もしさを感じていた。
「やっぱな……。あいつはこんなハキダメには似合わんな」
一条は苦笑して、次郎の言葉を思い出していた。
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