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楽園の紛糾
傷心2





「やあ、杉崎部長。しばらく留守にして申し訳なかった。いろいろと骨を折ってくれたようだね。ありがとう」
 聖は咄嗟にデスクに落ち着いて、穏やかな笑顔で杉崎部長を迎えた。
 この外面のよさには、ジェイドも呆れていた。
「いえ。総帥もお元気そうでなによりです。ところで、現在カイン軌道上を巡航中の哨戒艦に、やや不審な動きがありましたのでご報告にまいりました」
 執務室の三人は、部長の報告に嫌な予感を覚えた。
「哨戒艦遮那王をはじめとする艦隊は、カイン衛星軌道上での任務についておりましたが、つい二時間程前から軌道をはずれまして、司令室からのコンタクトに応じないという事態が発生しております」
「まさか、セレスを追って?」
 官房長官の予感は、あとのふたりのものと一致していた。
「いえ、その逆で。HEAVENに向かっております」
「帰って来てる?変だな……。なんの意味がある?」
 聖は解せない表情で部長の次の言葉を待った。
「はい。……それと、もうひとつ」
「なんだ?」
「武蔵坊弁慶が、ギャラクシア完成の記念式典を欠席いたしました」
「なにぃっ!」
 官房長官は驚いて声を上げた。
「武蔵坊は艦長に就任した者だぞ。それが、式典をサボタージュだと?なぜだっ!」
 部長に咬みつかんばかりに詰問する官房長官の姿は痛々しかった。ここまでトラブルが重なっては、泣きたくもなる。
「武蔵坊は遮那王の副長だった男だな」
 聖は彼等の企みを予感した。
「現在はギャラクシア艦長です。遮那王副長には杉崎少佐が就任しました」
 ジェイドが解説する。
「杉崎?あれはフェニックスの……」
「それは兄のほうです」
 部長が指摘すると、聖はきょとんとした。
「杉崎は軍に何人いるんだ?」
「遮那王副長である弟の次郎を含め三名です」
 官房長官の説明で、聖はため息をついた。
「立派な家系だな」
 黙り込む聖を囲んで、高官たちは固唾を呑んだ。
「――監察局に指令。武蔵坊弁慶を捕らえさせろ。遮那王は絶対武蔵坊とコンタクトをとる。彼等が事を起こす前に、なんとかくい止めるんだ」
 聖は高官たちに発令した。
「了解しました」
 杉崎情報司令部部長は、敬礼で応えてから執務室を退出した。
「あの野郎の事だ、絶対和平交渉の妨害を企てるぞ。その前に同志の招集を図るはずだ」
 たとえ一条でも、命令外の軍事行動は重罪として問われる。しかし、心強い味方である彼等を処罰するような事はしたくない。聖もそのくらいの情は持ち合わせている。
「だがな、オレだって和平交渉には反対なんだ。一条の野郎が早まってコトを起こさないように、しっかり監視するよう司令部に伝えろ。対抗馬に……」
 聖はそこまでは深刻に考えていながら、急に何かを企んだような笑みを浮かべた。
「――杉崎を使うか……。あいつには一度会ってみたい。フェニックスの発進命令を出してスタッフに招集をかけろ。オレもフェニックスに乗艦して一条を追う」
「それはいけません。あれはトラブルメーカーだと、先程お話ししたばかりではありませんか」
 官房長官はうろたえた。
「オレ様を誰だと思っている」
 聖は自信ありげに笑った。
「トラブルはオレ様にとって人生の華だ。ああ……なんだか燃えて来たぜ。やっぱりサムライは戦場にあってこそだよなあJ・B」
「総帥。あなたは……大統領の独断をダシにするつもりでしょう?クロイツと一戦を交えた彼等が羨ましいとか思っていませんか?」
 図星だった。
「この大統領の独断も、あなたがいれば事前にくい止められたのです。ツアーからとっくに帰っていたはずのあなたが、なぜ一日遅く現れたのです?」
 言えない。街で一目惚れした好青年をナンパしていたなどとは、口が裂けても言えない。
「自分はあなたに意見出来る立場ではありませんが……」
 この総帥付官房はいつも口うるさいくせに、自覚がないのか?と、聖は不愉快だった。
「――昨日は、たいそうお美しい連れとご一緒だったそうですね」
 なぜ知っている。
 聖は驚いた。
 やはり、この男の情報網は侮れないと実感した。



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あきゅろす。
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