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楽園の紛糾
setuna2





 真っ白いシーツの上で、橘が目覚めた。
 あまりすっきりしない目覚めにぼんやりしていると、その視界に先程の女の子の内のひとりが現れた。
「やーっと起きた」
 嬉しそうに橘を見つめていた彼女は、おもむろにガウンを脱いで橘にキスをした。
「こ……こは?」
「ホテル」
 動揺する橘に彼女はさらりと答える。
「他のひとは?」
「別の部屋」
 うろたえるだけの橘にかまわず、彼女は橘のシャツを剥いだ。
「別の部屋……って。……え?」
 ベルトを外し、手際よくパンツを剥ぐと彼女は肌を合わせてきた。
「なに驚いてんの今更?どうせナンパしにきたんならいいじゃない」
 積極的に唇を重ねてくる彼女に圧倒されたまま、橘はまだ状況が分かってはいなかった。
「……どーしていきなり、こんなコトになってるわけ?」
 首筋にキスを貰いながら、どう仕様もなくされるがままになっている。
「翔子ちゃんが、ここに来るって頑張ったんじゃない」
「翔子ちゃん……?」
 橘は青くなった。
 それは以前、無理やり立川に女装させられた時にもらった名前だ。
 もしかしたら自分は、酔った勢いで何かとんでもない事をやらかしたのではないだろうか……。橘は茫然とした。
 今まで『翔子ちゃん』が現れても、回りはいつも知った顔ばかりだったので、何があろうとその事実は伏せられていた。しかし今、『翔子ちゃん』の存在は橘の知るところとなってしまった。
「俺は何をしたんだ?」
 急におろおろと弱気になる橘に、彼女は気づいた。
「あれ?もしかして橘さんに戻っちゃったのぉ?……つまんないなぁ」
 翔子ちゃんの妖しい魅力に期待していた彼女は、そんなふうにがっかりしてみせたが、橘へのスキンシップを中断する事はなかった。
「ま……いいわ。もともと男のひとなんだし。結構いい身体してるじゃない。筋肉が締まって細いタイプって好み。ホント綺麗」
 彼女はそう言って、散々その身体をねぶるように愛撫しながら橘の情欲を煽った。
「きみは、女の子じゃないのか?」
「女の子よぉ。……でも女の子とのときは、いつもタチなの。だから、今日は男の子相手に攻められるって楽しみだったのよ。翔子ちゃん可愛いからぁ。リョウから引き離すの大変だったんだから」
「え?……あ!」
 自分の意志とは無関係に反応してしまう身体は、快感に正直だった。硬くなってきた先端を舌先でなぞられて、つい声が漏れる。
「あいつに……何したの、俺?」
 橘は情けない声で訊ねた。
「リョウとエッチしたいってきかなかったのよぉ。覚えて無いのぉ?」
「覚えてない……」
 消え入りそうな声が悲しげだった。彼女は、いささかの同情心を抱いた。
「仕方ないんじゃない?そういう酒癖だって、リョウだって知ってるんでしょう?そんな感じだったわよ」
(知ってたのかぁ?カンベンしてくれよ……俺は知らなかったぞ)
 自分の酒癖など知らなかった。誰も教えてはくれなかったのだ。
「もういいでしょ。そんな事よりちゃんと楽しんで抱かれてなさいよ」
「俺はネコじゃない」
「いいから気にしないの!」
 主導権は完全に彼女のものだった。
 初めてのことに戸惑っていた橘だったが、それでも確実に押し寄せる快感に抗う事など出来るはずも無く、素直に身を任せてみると結構楽しめる事に気付く。こんな快感を覚えてしまうと嵌まりそうで怖い。
「ばかね……ちゃんと声出しなさいよ。キモチイイでしょう?」
 最後の砦を頑なに守っていた橘に彼女がささやく。
 こんなふうに抱かれた事などなかった橘は、何かが崩壊していくような感覚に捕らわれた。
 それでも、与えられる快感に翻弄されて、つい声を漏らしてしまうと、あとは全てが一気に崩れていく。
「……っア!……んぅ……」
「気持ちイイでしょう?うふふ!もっとサービスしちゃう!」
 快感に素直に反応してみると、彼女は喜んでさらに快感を与えてくれる。
 そんな睦み合いは愛情すら感じられて、長年馴染んできた身体のようにとても優しかった。
 彼女の指と舌は繊細でくすぐったい。
 さらりとした肌の感触が気持ちいい。
 全身に与えられる愛撫のすべてが心地よくて、時折贈られる柔らかなキスまでが橘を夢心地にしていった。



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