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楽園の紛糾
love me9





 ローションを使ってさらになじませてから、誘われるまま橘に向かった。
 しかし、いざとなるとなんだか申し訳無いような気分になってしまう。十分に愛撫して柔らかくなったそこでも、やはり女性とは違って随分ときつく感じる。
 西奈は橘を案じた。
「あの……平気ですか?」
「うん。大丈夫」
 上気した表情で艶然と返されて、西奈は(ほだ)されてしまった。
 先端をあてがってゆっくりと分け挿ろうと試みる。
 なかなかうまくいかなくて、ぬめる先端で周囲をなぞり、受け入れを促した。指先でさらに広げながら、それでも時間を要した。
 しかし、先端さえ含まれれば後はスムーズかとも思っていた西奈は、橘の中に入ってから自分の考えの甘さを知った。
「橘さん、力抜いて下さい」
「だって……痛い!」
 内環をくぐり抜けて、やっと体内に到達した途端に、橘は緊張してパニックに陥った。
 西奈はもう後には引けない。何故なら、彼も痛くて動けなかったからだ。
「……恐くない。酷いことなんてしないから、力抜いて僕を見て下さい」
 自分も辛い。けれど、精一杯橘を落ち着かせようとした。
 少しだけおとなしくなった橘の瞼から、不意に涙が零れ落ちる。
 そんな橘を見て、西奈の胸が締め付けられた。
 橘は浅い呼吸のまま、ゆっくりと目を開けて瞳を持ち上げた。
 目の前には自分を慮る表情があって、優しさを伝えてくる。
 本当は、ずっと前からその視線に気付いていた。
 沈み込みそうな時の自分の気持ちをいつも和らげてくれていた。いつも傍で見守ってくれて、時には支えになって押し上げてくれた。
 西奈は、いつの間にか自分の心の中に溶け込んでいて、なくてはならない存在になっていた。
 こんなに傍にいながら、その事に気付かないでいた自分が愚かに思える。
「西奈……」
「はい」
 穏やかな微笑みが返ってくる。
「西奈」
「──なんですか?」
 あんな酷い目にあった後でも、優しい視線は変らなかった。
「ごめん……俺」
 やんわりと西奈に抱き着いて、橘は自分の様々な失態に赤面した。
「おまえが乱暴するわけないのにな……。俺が下手だから……ごめん」
 上手だったらそれはそれで気になって、もやもやする。けれど、恥じらう様がなんて可愛いんだろうと思えて、西奈はそれまでの痛みを忘れて感無量だった。
 いつも橘と一緒にいる沢口が羨ましかった。気安くかかわる立川や杉崎が憧れだった。
 しかし、今や自分は彼等と同等の立場に、むしろそれ以上にまで昇ってきたのだと実感した。
 あの人当たりの差が激しい彼にここまで許されて、西奈は嬉しかった。
「橘さん……」
 なかなか自分の立場を認められなかった西奈は、今やっと自分の立場を認識できた。
「いいですか?」
「うん。もう大丈夫」
 橘の許しを得て、西奈は更に身体を深く埋めていく。橘の表情を確認しながら、互いの肌がぴったりと触れ合うまでゆっくりと穿つ。
 やがて、全てを受け入れてから、橘は止めていた息を吐きだした。
 ジリジリと焼けつくような感覚はあっても、それでも橘は幸福感に満たされていた。
 橘の全てに優しい心遣いをみせる西奈が、もしかしたら自分が焦がれてやまなかったものを与えてくれるかもしれない。
 そんな期待が橘の中に育っていた。
「橘さん……」
「うん?」
「大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫」
 夢見心地な表情の橘に、西奈は安堵して接吻を贈った。




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