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楽園の紛糾
love me4





「何故だ?聞きたいのはこっちのほうだ!全て金で片づけようとして、自分のやっている事をうやむやにして……正当化したいだけなんだろ!」
 感情の昂まりとともに不意に涙が零れ落ちた。
 西奈はその悲しみを知って、全身の痛みを覚えた。
「なんでみんな身体だけなんだよ。なんでひとの感情をシャットアウトしようとするんだ?俺は……。俺は玩具(オモチャ)じゃない!」
 涙がとめどなく溢れて、言葉が詰まる。
 橘は、孤独に心を傷めて、やり場のない悲しみを抱えていた。
 西奈は、橘が思った以上にピュアな人間だった事に気付いた。
 自分を必要としてくれる誰かを求めていただけの彼の心を、こんなふうに壊してしまったのは自分の責任だ。それに気づかずに、橘を責めるだけだった自分が堪らなくなった。
「俺の価値は外見(みてくれ)だけなのかよっ!」
「違う!」
 自分を貶める橘を、西奈は否定した。
「……違う」
 身の置き場もないほどの悲しみに苛まれる橘の身体を、西奈は思わず抱き寄せた。
 ここまで橘を追い詰めてしまった事に、気づかないでいた自分が許せない。
 橘は、あまりにも大きな感情の揺らぎと悲しみに襲われて、抜け殻のようになって抵抗できないまま、西奈に身を任せていた。
「自分は、あなたを傷つけるつもりなんてなかった」
 西奈は橘の髪に頬を寄せて、悲しみを共有する。
「あなたが好きなのに……。あなたにはいつも、笑顔でいて欲しかっただけなのに」
 虚脱したように茫然とした橘は、黙って西奈の言葉に耳を傾けていた。
 西奈の寄り添う情が伝わってきて、さっきまで荒れていた感情が、暖かく包まれて鎮まってゆく。
「ごめんなさい。もう、あなたを苦しめたりしないから、こんな事はやめて下さい……。お願いです、橘さん」
 西奈は、橘の肩を抱いたまま懇願した。
 そんな不毛な関係で、心を擦り減らすような事はして欲しくない。
 しかし、西奈の誠意が伝わったとしても、橘の虚無感はどうしても埋められなかった。
 素直な気持ちで愛し合ったはずなのに、どうにもならないその場限りの関係は橘に不信感を与えて、その感情は行き場を失って沈んでいった。
「――誰も、俺を必要としてくれないなら。……割り切るしかないだろう?俺は独りではいられない。たとえ仮初めの愛情でも、その時だけは温かいんだ……。それまで取り上げないでくれよ」
 何もかも諦めたようなあえかな視線で西奈を見上げる。永遠の孤独さえ覚悟したような口ぶりが切ない。
「誰も、俺を愛してくれないなら……」
「愛しています」
 否定したくて思わず口を突いて出た言葉に、西奈は自身で混乱した。
 橘も驚いて言葉を失う。
「あなたは……僕の……」
 何を言おうとしているのか。
 この、込み上げる感情は何なのか。
 西奈は橘の身体を離して、涙に濡れたままの顔を見つめた。



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