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楽園の紛糾
いつも君のそばに11





 杉崎は苦笑したまま家のなかに戻った。
 リビングに誰もいなくなっているのに気づいて、杉崎はひとりでグラスを傾けている立川に尋ねた。
「次郎は?」
「森を連れて部屋に引っ込んだ」
 立川は相変わらずマイペースで飲み続けている。
 杉崎は次郎の献身を知って穏やかに微笑んだ。森の傷心を慰めるために、今頃あれこれと気を使っているに違いない。
 今まで煮え切らなかった弟が、やっと本気になった相手が同性で、しかもほかに想い人がいるという条件まで自分のときと全く同じで洒落にもならない。そんな事に気付いてしまうとなんだか可笑しくなった。
「女房をひとりで帰して良かったのか?」
 杉崎は立川の向いに座った。
「ああ。こういう機会でもなけりゃ、あんたとゆっくり話せないだろう?」
 HEAVENにやってきた頃、いつまでも傍にいてくれると思っていた立川が自分から離れていった事で気落ちしていた。その時も立川は同じ事を言っていたような気がする。
 それはもうずっと以前の事のようで、その言葉がなんだか懐かしく感じる。
 互いに進む方向が変わってきたはずだった。それなのに、別れを告げたはずの戦友は、今でも傍にいて支えてくれている。
 きっとこれからも、自分たちが思う以上に、互いに傍に在り続けるに違いない。
 それは、杉崎にとっては嬉しい誤算だった。
「──そうだな」
 杉崎は過去を思って微笑んだ。
「初めてフェニックスに配属された時のことでも、語り合ってみるか?」
 自分たちが再び出会って、互いに命を預ける事を誓い合ったあの日。
 ふたりは、共になくてはならない存在になった。
「いいね。うんざりするほど、とんでもない思い出ばかりだ」
 立川は苦笑した。
 今だからこそ笑い合える。本当は、こんな穏やかな時を過ごせるとは思ってもみなかった。互いに、最期を決意したときに、すべてが終わるはずだった。
 広大な世界の不文律が、自分たちの想像をはるかに越えて存在している。
 それはまるで、ちっぽけな生命体の後悔に慈愛を注いでくれたように、彼等をHEAVENへと導いてくれた。
 ふたりは、その慈愛に深く感謝した。
「まあ……。とりあえず乾杯しよう」
 立川がグラスを掲げた。
「何に?」
 杉崎の問いに、立川は悪戯っぽく笑った。
「再会を祝して」
 立川のエスプリに、杉崎は失笑した。
「確かに」
 杉崎もグラスを掲げて、ふたりは笑顔を向け合う。
 遮那王の一件は残念ではあるが、ただ、彼等が無事でよかったと思える。
 いつか、彼等と再会するその日まで変わらずに。
 ふたりは、この笑顔がいつでも傍に在る事を祈った。
「──乾杯」
 グラスの透明な音が、室内に響いた。





HEAVENU
 楽園の紛糾
──終──




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