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楽園の紛糾
いつも君のそばに9





 調理を終えて揃って席についた次郎たちは、久しぶりの解放感に酔っていた。
 いつのまにいなくなったのか、この家の主夫婦の姿がリビングから消えていた。
 こんなふうに上官たちと同席して飲むことなどなかった者の目には、穏やかに微笑みを浮かべて静かに立川と語らう杉崎の姿は新鮮に映る。
 いつも高いところから命令する艦長の姿しか知らない。
 ただ、戦争が終わって、無事に帰艦してきた部下を迎えるときの杉崎は、いつもこんなふうに微笑んでいたような気がして、彼の笑顔は部下たちにとっては平穏の象徴のようにも思えて安心させられる。遠い存在の上官でありながら、彼等は杉崎に対して敬愛の情を寄せていた。
 響姫と立川はいつもと変わらない。艦内でも素のままでマイペースを保っているらしいと知る。一時的にメンタルバランスを崩したように見えた時期もあったが、それはすぐに修正された。
 ブリッヂのマスコットたちは相変わらずのマイペースを貫いている。艦内にいる時とはまた違った子供のような表情を見せる。
 ナンパな遊びは派手だったくせに、艦内では苦労性の西奈と早乙女は、久しぶりのゆったりとした時間を楽しんでいた。互いに気が合うからこそ、そのコンビネーションは抜群だった。今ではふたりとも鎖でつながれる身となってしまったが、それを『年貢の収めどき』というのだろう。
 少し離れたリビングの隅では、女性パイロットふたりと土井垣が語らっていた。
 何が引き合ったのか分からないカップルは、それでも幸せそうにくっついている。甘えたがりの葵と、かまいたがりな土井垣のふたりは実は理想的な組み合わせだったに違いない。人前で平気でイチャつくふたりを目の前にしていても、静香は微笑んで見守っていた。
 沈みがちな森を、次郎がなにかとかまっている。他愛のない話をしながら、悲しみを思い出さないようにと気を使う。次郎の献身は、それまでの森の想いに応えているようでもあった。
 穏やかで充実した時間はゆっくりとすぎてゆく。
 この束の間の休息は、まさに命の洗濯だと皆が感じていた。
「こんなに揃うんだったら、野村も誘えばよかったな」
 立川がリビングを眺めて呟いた。この場に野村も居たなら、森の気持ちもまた少しでも慰められたかもしれないと思う。
「ん?まあ、いいんじゃないか?……あいつはあいつで、一緒にいたい奴だっているだろうし」
 グラスを傾けてほのめかす杉崎の言葉で、立川は思い出した。
「ああ。総帥ね」
「え?黒木だろ?」
 意見が食い違って、ふたりは互いの情報を訂正する。
「黒木?違うだろ?俺には総帥を紹介してくれたぞ」
「だってあのとき、あいつ……」
 釈然としないまま見つめ合うふたりの会話に、まわりの者が沈黙して集中していた。
 杉崎と立川は自分たちの失態に気付いて青くなった。
 声をひそめていたつもりが、周りが静かになりすぎていた。
「やだ……。じゃあタカさんったら、あのままふたりと続いてたんだ」
 葵の爆弾発言が周囲を驚愕させる。
「あ、でもステキ!ふたりも恋人がいるなんて」
 クスクス笑いながら楽しそうに言ってのける葵に、全員が騒然とした。
「タカが黒木中尉と?」
「総帥ってのはなんだ総帥って!」
「……っていうか、あいつやっぱり同類だったんじゃないか!」
 艦内では、クールガイを装っていた彼も、結局やっていることは自分たちと同じだったと知って、同僚たちははなぜか騙されていた気分になる。
 特に早乙女は合点がいかなかった。
 ふたりも男の恋人がいて、なぜスカーレットまで。自分の事を棚上げして、そんないいかげんさに呆れてしまう。
 別な意味で、森も同様に悩んでいた。
 可愛くてきれいなのが好きだったはずの攻め専の野村が、なぜ黒木とつきあっているのか。あるいは黒木を抱いているという事か?
 森は、想像を絶するカップリングに混乱をきたしていた。
「ああ……まずいコト言っちまった」
 杉崎と立川は困惑して見つめ合っていた。





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