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楽園の紛糾
love me3





 図らずも自分の部屋まで橘を強引に連れて来てしまった西奈は、室内に案内してからソファーに座らせて、ずっと黙り込んだままの彼に温かいミルクティーを差し出した。
 いつも橘を見ているうちに、彼の好みを覚えていた。
 コートを着たままの橘は、カップを受け取って冷えた両手を温める。
 視線を落とす橘は無言のままだ。
 あんなところを見られてしまってはきまりが悪いだろうと、その心情は理解できる。
 しかし、どうしてあの男たちに勝手な事を言わせておくのか。西奈にはそれが解せなかった。
 もしかしたら、噂は本当だったのだろうか。
 そんな疑念が西奈の中に生まれる。
 しばらく無言でカップの中を見つめていた橘は、一度も口を付けないままそれをテーブルに置いて立ち上がった。
「どこへ?」
「帰る」
「待ってください!」
 西奈は慌てて橘の袖を掴んで引き留めた。彼の様子は普通ではないと思う。だから真実を確かめたかった。
「どうして否定しなかったんですか?あんな目に遭っていながら、どうして……」
 思わず詰問してしまう西奈の手を振り払って、橘はふたたび唇の端だけで冷たく笑って見せた。
「その通りだからさ」
 身売りをして荒稼ぎしている。橘はそれをあっさりと認めた。
「嘘だ……」
 西奈は愕然とした。そんな事は絶対にあってはならない事だった。
 自分がずっと憧れにも似た感情を抱いていた彼は、そんな事をしてはいけない。西奈にとっての橘は、どんな状況にあったとしても高潔な存在だったのだ。
「どうしてそんな事をするんですか!あなたみたいなひとが……どうして?」
 告白された事実を受け入れる事が出来ずに、西奈の感情が昂ぶる。
「俺みたいな?」
 橘は苦笑した。
「俺ってなんだよ?そんなご立派な人間じゃないよ俺は」
 勝手に人物像を決めつけられて押し付けられるのは不愉快だと思う。
 感情を寄せ付けない冷えた視線が西奈に向けられた。
「だいたいおまえだって同類じゃないか。寄って来る女抱いて何が悪い?」
 自分の行為をちゃんと分かっていながら、開き直る橘は西奈さえも挑発してきた。
「違う。自分は相手と同等の立場であるけれど、あなたの場合はそうじゃない」
 挑発に乗った西奈の言葉に、橘の眉間がピクリと歪んだ。
「セックスを売り物にして。自分を貶めて。……僕はそんな事をさせるためにあなたを誘ったわけじゃない」
 昂ぶる感情のまま裁く言葉が、橘の逆鱗に触れた。
「俺は金が欲しいなんてひと言も言っちゃいない!」
 自分を責める西奈に、橘が反撃した。
「どいつもこいつもこんなモノ置いて行きやがって!……俺が欲しいのはこんな物じゃないっっ!!」
 橘は、コートのポケットから数枚の高額紙幣を取り出して西奈へ投げつけた。
 橘の内に在る悲鳴が聞こえる。
 舞落ちる紙幣を見つめて、西奈は茫然と立ちつくした。



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