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楽園の紛糾
いつも君のそばに6





 エアブリッジから切り離され、遮那王は空港ビルを離れて行く。
 先に離陸した梵天王に続いて滑走路に入る。
 そして、万感の想いを残して、遮那王のブースターが火を噴いた。
 送迎デッキに上がって見送っていた森が、デッキのフェンスを握り締めたまま艦体を見つめ続ける。
 ブースターの吹き上げる炎の熱気で、遮那王の艦尾が蜃気楼のように揺らめいて見える。
 滑るように進む艦体は、やがて垂直に伸びる滑走路の端から放たれ、瞬く間に上昇して光の点となって消えて行った。
 遮那王が朱の空に消えてから、森はフェンスにすがったまま泣き崩れた。
「──蘭丸」
 その傍らに佇む次郎は途方に暮れる。
 ほかにどうすれば良かったというのだろう。本当は、ふたりを認めてはいけなかったのだろうか。
 悲しみに溺れる森の姿を見て、次郎はふたたび確信を失っていた。



「助け舟出してやらなくてもいいのか?」
 フェンスに佇むふたりを見つめて、立川は杉崎に訊ねた。
「いいんだ。ああやって、大人になっていくんだから……な?」
 杉崎は、傍らに立つ早乙女に同意を求めた。
 突然ふられた早乙女は答えに詰まる。
「え?ええ……まあ」
 以前、響姫をめぐって繰り広げていた泥沼のトライアングルを思い出して、早乙女は困惑した。
「大人ねえ……」
 杉崎と早乙女の関係を知っている立川にとっては、杉崎の言うところの深い意味が良く分かる。
「俺はそんな大人にはなりたかねーな」
 ため息をついてから、立川はビルの中に戻って行った。
 杉崎と早乙女もまた、次郎らをのこしたまま立川の後を追ってビルの中へ消えて行った。
 やがて、送迎デッキからはすべての人影が無くなった。
 朱の空もいつしか深い藍に変わり、星の輝きが見え始めていた。
 冬が近づいて来たこの季節の夜は、随分と冷え込む。
「──帰ろう、蘭丸」
 次郎は、うずくまる森の傍に膝をついて視線を合わせた。
 すっかり冷たくなった両手を、その手に包んで暖める。
「俺ん家に来い。美味いモン食わしてやるよ」
 穏やかに微笑む次郎を見て、森はふたたび涙を零した。
「ばかだよ、隊長。……こんな僕に優しくしないでよ」
「俺にだって、おまえの慰め役くらいはできる。それくらいさせてくれ」
 優しく包みこむ眼差しに、また縋ってしまう。
 次郎に対して申し訳ない気持ちで一杯だったけれど、それでも森は、今夜は独りでいられそうもなかった。
「──うん」
 うなずく森に、次郎はほっとして帰りをうながした。
 ふたりは立ち上がってロビーへと向かった。


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