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楽園の紛糾
I will15





「なんだよ」
 沢口は杉崎の表情に過敏に反応する。嫌だと言いながら結局はまだ杉崎の在り方に振り回される沢口が可愛いと思えた。
「俺だって、過労死寸前になるほど、おまえを愛しているんだぞ」
 穏やかに微笑む杉崎を、沢口はじっと見つめた。自分を探して連れ戻した彼を、信じたいと思っていた。
 自分に向けられる杉崎の視線が暖かい。
 本当は、こんな杉崎がずっと欲しかった。
「どうした?」
「――やっぱり、いい男だな」
 ため息まじりに憧れの気持ちを洩らす沢口を杉崎は笑う。
「おまえも綺麗だぞ」
「そんなの男への褒め言葉じゃありませんよ」
「じゃあそのナリをなんとかしろ。HEAVENに帰ったら元に戻せ」
 杉崎は笑いながら芝生に寝転んだ。
 ふたたび沈黙するふたりのまわりに、小鳥のさえずりが戻って来た。
 木漏れ日のなかで、休むふたりを囲む風景が、何かを思い出させる。こんな風景があった事を、以前から知っていたような気がする。
 既視感(デジャヴ)
 そんな言葉を沢口は思い出した。
「なんだろう……。こんなふうに芝生に座って。あなたと、こうやってふたりでいた事があったような気がする」
 沢口は木漏れ日を見上げながらつぶやいた。
「ジュリアスのところだろう」
 横になって目を閉じたまま、杉崎が答えた。
 地球の同盟国であった惑星に立ち寄ったとき、杉崎とともにこんな時を過ごした事があった。沢口はそれを思い出して、切なくて暖かい感情に包まれた。
 あのときの自分はまだ新兵で、艦長とともにそんな時間など持てるはずがなかった。今思うと、自分は立場を越えてずいぶんと杉崎の傍にいたような気がする。それは杉崎の想いの現れだったのだろうか。
「――おまえとの……最後の時間だったな」
 思い出した杉崎が、不意に悲しい視線で樹上を見つめた。
 その後、地球に戻ってからは、クロイツとの戦争に突入した。地球の大地に立つ事なく戦死した沢口にとっては、そこが最後の地上だった。
 また、いつまでこうしていられるのだろう。
 突然の別れは、容赦なくふたりを引き離す。
 あのときの苦い後悔は、二度と味わいたくはない。
 杉崎はそんな想いで、沢口を見つめた。
「こんな時間が戻ってくるなんて、思ってもみなかった。だからもう理屈はいい。どう取り繕ったって所詮無理なんだ……」
 なんとか守ろうとした自身の立場と理性を振り返って、頑なである事の不自然さを実感する。響姫との時とは違う。愛するのに障害などないはずの相手に、何をためらう必要があるのだろう。
「俺だって、おまえが欲しいんだよ」
 めったに聞けないであろう告白で、胸が締め付けられるように心地よく疼く。沢口は、無防備に仰臥している杉崎の上に迫った。
「素直じゃないのは、お互い様だったね」
 見下ろす沢口が杉崎を笑う。
「そのようだな」
 杉崎は苦笑した。
「あの時もね、本当は、こうしたかったんだ……」
 沢口は、杉崎に誘われるようにくちづけを贈った。
 目を閉じて迎えた杉崎の手が、そっと沢口を抱き寄せる。
 じっくりと互いを愛撫するキスを味わううちに、沢口の若い身体に火がついた。
「艦長……」
 杉崎の肩に抱きついて、どうしていいかわからない火照りを持て余す。
「したい」
 沢口の動悸が、寄り添う胸に伝わってきた。
「帰るか?」
「うん」
 素直に甘えてくる沢口を抱きしめて、杉崎は満足そうに微笑んだ。




11.I will
――終―


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