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楽園の紛糾
I will10





「君たちも下がっていい。先にシャトルに戻っていてくれ」
 大統領は護衛についていたふたりに促した。
 ふたりは沈黙したまま頭を下げて、士官室を去って行った。
「――いやぁ……。初々しくて、可愛いなぁ」
 大統領が急にだらしなくニヤニヤ笑って、野村の事を思い出した。
「なに言ってんだ。このスケベオヤジ」
 聖の毒舌が爆烈する。
「なれなれしくタカに触りやがって」
 憤然とする聖を一瞥して、大統領はニヤリと笑う。
「残念だったな聖。彼はフェニックスを離れる気はないらしいぞ」
 聖の思惑を見透かして嘲笑を向ける。それは的を射すぎて聖の逆鱗に触れた。
「んだとこの野郎。すかした付け髭なんぞでシブくきめたつもりだろーが」
 聖は大統領を押さえ込んで、もみあげ部分を思い切り引っ張った。
「てめーのヒゲヅラなんてスケベーを強調しているだけだろーがっ!」
「痛……ってぇぇぇーっっ!」
 聖の手によって、一気に髭が剥がされていった。剥ぎとられて手からブラブラと下がるそれは、口元から離れてしまうと得体の知れない面妖なものに見える。
「……かやろう。それ付けるの大変なんだぞ」
 大統領は髭を失った頬を手で押さえながら涙目を向けた。
「こっちはなんだ?ヅラか?」
 髪まで引っ張ろうとする聖に、大統領はあわてて抵抗する。
「止めろって!染めたんだ。引っ張るな!」
 ギャラリーがいなくなったらすぐこれだ。ジェイドはもう何かを言う気力を失っていた。
「あっちの大統領との会見だったんだ。素のナリで会えるわけないだろう」
 やっとのことで聖から逃れた大統領は、むっとして言い捨てた。
 髭を失った彼の肌は若々しい艶がある。その見かけの年齢と甘いマスクは、とても一国の最高権力者には見えない。
「何が会見だ。ロブ」
 聖は凶暴な顔付きで大統領に迫った。
「オレさまのいない間に、よくもぬけがけしてくれたなぁ」
 ギクッ。と、大統領の身体が強ばった。
「いや、これには深いワケが……」
 たじろぐ大統領に聖が迫る。
「総帥。落ち着いて」
 ただならぬ雰囲気を感じて、ジェイドが聖をなだめようと介入する。
「JB。おまえも死にてーか?」
「めっそうもない」
 聖の気迫に圧されて、ジェイドは身を引いた。
「いいかロブ。おまえの勝手な行動で、こっちは多大な迷惑を被ったんだ。哨戒艦連中を煽ったのも、タカが負傷したのも、みんなおまえのせいだ!」
 こうなった聖はもう誰にも止められない。怒りのあまり暴走が始まる。
「この件についちゃあ、HEAVENに帰ってからと思っていたけどな。やっぱガマンならねぇ。ロバートぉぉぉぉ」
 大統領の襟元をつかんで、睨みをきかせる聖は、この間のさまざまなトラブルを、あとからあとから思い出して、怒りに歯止めがきかなくなってしまった。
「秘書がやった事なんだ!」
 聖の手を振り払って大統領が応えると、聖の頭にさらに血が昇った。
「常套句だな。お偉いお役人さんはいつもそれだ!」
 右の拳が真っすぐに大統領の顔に向かった。
 手応えはあった。だが、その拳は一瞬のうちに割り込んで来たジェイドのあごに打ち込まれていた。
 大統領と聖は驚いてジェイドを見た。
 聖は狼狽してジェイドの顔を両手でつかんで引き寄せた。衝撃が唇を引き裂いて鮮血が流れている。
「ああぁ、バカヤロウ。まともに入ってるじゃないか」
 聖は胸のポケットからハンカチを取り出して、ジェイドの口元を押さえた。



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