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楽園の紛糾
I will8





「本当なのか?」
 響姫はベッドの早乙女を一瞥した。
「なに?信用ないなあ」
 野村とは対照的に落ち着き払った態度が、響姫には気に入らない。
「おまえ、あいつに何をした?」
「なにもしてないよ」
「あいつのここに跡があったぞ」
 早乙女の首に触れて指摘する。
 ほんの冗談のつもりが、少しやりすぎたかも知れない。早乙女が野村のそこにキスをしたのは事実だった。
「あれは僕じゃないよ」
 スカーレットとのこともある。自分とは限らないのも確かだった。
 響姫は疑いの目でじっと早乙女を見てから、不意にニヤリと笑った。
「何にせよ、俺以外の男に興味を持つなんてな」
「そういうのじゃないよ」
「いい傾向だって言ってんだよ。おまえの周りは女ばっかで、ダチは少なかっただろ」
「すみませんね」
 早乙女は面白くなさそうに響姫を見上げた。
「ベタベタ仲良くしろとは言わないが。あんまりあいつをからかうなよ」
 響姫は、ベッドに腰をおろして煙草に火を点けた。
「随分優しいじゃない」
 早乙女はおもしろくない。響姫から煙草を奪って一服する。
「あたりまえだ。俺はあいつに愛情持っちまったからな」
 響姫は早乙女から煙草を奪い返した。
「愛情、って。洸……」
 今にも泣きださんばかりに情けなく表情を崩す早乙女を、響姫は鼻で笑う。
「なんの見返りも求めないあいつの在り方は純粋で可愛い。おまえとは違う」
「そんな……」
「周りに対して何も求めないようにしている。そんなふうに見えているのは、俺だけなのかな」
 情けない表情のままでいる早乙女を見て少し可愛そうになる。いい加減にして欲しいと思うほど、自分の言動に過剰に反応する早乙女が、可愛くもありうっとうしくもある。
「念のため言っておくが、俺だってあいつに何かを求めたりしちゃいないからな。そういう類いの感情じゃない。それに比べりゃ、おまえの求めたがりは過剰だ」
「すみませんね。僕はしつこいですから」
 早乙女は安心していつもの自分を取り戻した。
 ふたたび響姫の煙草を取り上げてその唇にキスを贈る。そして、煙草を灰皿に押し付けてからそのまま響姫を押し倒した。
「あいつは、求められたり求めたりすることに慣れてないだけだよ。昔何があったかは知らないけど、恋愛することに臆病だった」
 響姫のユニフォームを剥いで、その肌にくちづける。
「最近変わったみたいだけど……。そういうことを経験して変化していく過程を見るのは、結構おもしろいからね」
 早乙女に抱かれながら、響姫は咽の奥で笑いをこらえていた。
「おまえもな……おもしろいぞ」
「なにが?」
 愛する響姫を手に入れてから、響姫に対してだけは裸の感情を絡ませてくるようになった。見栄も体裁もプライドもない。以前のような駆引きもなくなった。早乙女には、そんな自覚はないとみえる。
「可愛いから」
「洸……」
 早乙女は、感極まって響姫の身体をぎゅっと抱きしめた。
「嬉しいけど……でも、可愛いって思われるのは、あんまり嬉しくない」
 複雑な男心だった。




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