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楽園の紛糾
I will5







「だいたいおまえはなぁ……、新兵のときからナンパなやつで気に食わなかったんだ」
 何本目かのボトルを飲み干してから、野村が早乙女にからんでいた。
「この年まで童貞でいるほうがどうかしてる」
「女をオモチャにしてんだろ」
「人聞きが悪いな」
 早乙女は煙草を取り出して火をつけた。
「むこうだって、僕を楽しんでいるんだ」
「先生はそれ知ってんのか?」
 野村は早乙女に迫った。
「そんなのは昔の事だろう」
 早乙女の言い訳を聞いて、野村はニヤリと笑う。
「あんないい男をモノにしておいて……。女にまで手ぇ出してたんじゃ、今に」
 そこまで言いかけて、それが自分にもあてはまる事に野村は気づいた。
 そして、後ろめたい気持ちになる。
「おい」
 野村は早乙女に確認した。
「ここでおれが話した事は」
 野村の態度の急変に、早乙女は野村のなかにある負い目を感じ取った。
「なに?ナイショにしてほしいの?」
 優越感を見せる早乙女の態度は気に食わないが、今までの告白を他言してほしくはない。
 野村はしおらしく頷いた。
 早乙女は意味深に微笑む。
「――君。そうしていると可愛いのにね」
 迫ってきていた野村の顔を手のひらで包みこんでじっと見つめる。その視線が何やら艶っぽくて、野村は意図せず赤くなった。
 その反応を見た早乙女はさらに艶然と微笑む。
「じゃあこうしよう。君の想いのすべてを僕の胸のうちにしまっておくかわりに、君のすべてを僕にくれるっていうのはどうだい?」
 今度は野村が固まった。
 こんな壊れた事を言うやつだったのかと耳を疑う。
「お、おまえの事だって、おれがばらしてしまったら」
 狼狽した野村が反論したが早乙女は動じない。
「そんな事誰も信じるものか。出来過ぎだよ。嘘にしか聞こえない。そうなったら、君の信用のほうが危うくなるよ……タカ」
 煙草をもみ消して、余裕の態度で返す。
 そして、早乙女は野村の手首をつかんだ。
「君は」
 ぐっと身体を寄せて接近する。野村は今にもソファーに押し倒されそうな体勢だった。
「両方いけそうなクチだね」
 早乙女に触れられる事を嫌わない野村の、同性である自分を性的に意識している態度が早乙女にも分かっていた。
「違う!おれは」
 男だけとは、さすがに言えない。
「――タカ」
 耳元でささやきが濡れる。そこにくちづけられて、野村の腰が否応無く疼いた。
「やめろよ。先生に知られたら、おまえ」
「君が言わなければいいんだ」
 強引に押し倒されて、いよいよ貞操の危機を感じる。
 だが、完全に拒絶しても、自分の旗色が悪くなるのは分かっていた。



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