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聖戦の礎 ―決戦編― (完結)
会戦6





「待て待て待てっっ!! おまえら無謀すぎだっ!!」
 十字軍艦隊の厚い布陣を突破して、艦隊中央を目指すヴァ・ルーとヴァルキュレイ隊を追う立川健一朗は、引率と管理の立場に追われていた。
 感性でしか戦わない女たちの動きはまったく予想もつかないピンボールのようで、例え専属回線で繋がっていても、意識の共有には分厚い壁が立ちはだかる。
 群がる敵軍に対して、無秩序に各個撃破して目標に向かう彼女たちの戦法に、健一朗はただ翻弄されて追いていけない。
 同じグラディウス隊の小松原は、生体融合兵器の開発者らしく、彼女たちの動きを読みながらそつなく戦場を制覇してゆく。
「戦隊組まないと集中砲火を喰らうって分かんねーのか!?」
 ヴァルキュレイ隊に指示する健一朗に、ヴァルキュレイの操縦士リレイが反論した。
「うるさいよケンイチロー! わたしたちちゃんと見えてるね。みんなの意識がレーダー替わりよ。集中砲火浴びるのおまえの方ね。もしかして怖いか?」
 独特のイントネーションで嘲るリレイの言葉に、健一朗は腹を立てた。
 まだ若い十代の面差しと、真っ直ぐな感性を隠そうともしないリレイの奔放さにはいつも振り回される。
「小娘が……。上官に向かって何が『健一朗』だ!」
 健一朗は焦りと怒りのあまり、冷静さを失ってリレイに向かった。
「何が上官ね! 新入りのぺーぺーが、偉そうに指図するなよ!! わたしの方が先輩よ。おまえ先輩に盾突くか!?」
「ええっ??」
 あまりに心外過ぎるリレイの反撃に、健一朗は怒りを忘れて唖然とした。
 認識の違いにうまくついて行けない健一朗は、リレイの認識の方を疑う。
「いや……あの。俺、艦隊参謀の将校なんだけど……」
 地球連邦軍に在籍していた健一朗は、指揮官としても操縦士としても存分に実力を発揮して、栄誉ある立場に君臨してきた。
 その自負を一蹴されては戸惑いを隠せない。
「まあ……確かにそうだったわね」
 端で聞いていたヒルダが思い出して呟く。
 健一朗は、そんなヒルダの一言を聞き逃さなかった。
「シアーズ中尉?……君だって隊長クラスの士官だったろう?」
「ああ……止して下さい。もう、そんなの恥ずかしいですよ」
 ヒルダは謙遜ではなく、本当に恥入るように健一朗を制止した。
 フェニックス副長兼艦隊参謀だった立川健一朗中佐は、軍ではフェニックス艦隊提督柴崎一興と共にその名声を二分する存在だった。連邦軍フェニックス戦闘機隊出身のヒルダにとっても、彼は尊敬する上官であり憧れの操縦士だった。
 しかし、HEAVENに在っては、そんな地球での栄光などカスみたいなものだとヒルダは思い知らされた。
「わたしなんてヒヨッコです」
 HEAVEN防衛軍の猛者たちを思うと、とても同じ土俵で勝負する気にはなれない。
 百年以上も戦場に君臨し続ける猛者たちが、階級へのこだわりを持たないまま自由奔放に戦い続けている。
 この世界では実力こそが全てで、階級など意味を成さない。
 実際、軍総帥である聖は、総帥である事を面倒臭がって常に辞めたいと愚痴っているし、間違いなく軍の実力者のひとりである黒木は、『黒木中尉』として、フェニックスの海兵隊隊長の立場にある事の方が気に入っている。
 総帥付官房職にあり、現実には副総帥の立場で軍を統括するジェイドでさえ、中将以上の階級を総帥同様に面倒くさがって辞令を拒絶したままで、軍官房長官ルーデンドルフの頭痛の種になっているという事実がある。
 そんな内情を知ってしまえば、階級や名声にこだわるのはかえって愚かに見えた。
 しかし、迫る敵軍を弾き飛ばすように撃墜して旗艦へと進軍を続ける彼女たちは、謙遜していても生体融合兵器の戦力はHEAVEN防衛軍での最強レベルを誇っていた。





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