聖戦の礎 ―決戦編― (完結) 大儀11 武蔵坊はそんな森の状態を知って、さらに一条へと真実を伝える。 「――ずっと杉崎提督の支配下にあった。始めから……ずっとだ」 「そんなん分かっとるわボケ!それを蘭丸の口から言わせんと意味ないやろ、このドあほ!!」 当然のように吐き捨てた一条の言葉を聞いて、森は愕然とした。 なぜそんな事を知っているのか。森は今までの自分の在り方が、このふたりにはとうに知れていた事を察して混乱した。 今まで隠し通してきた自分の努力は一体なんだったのだろう。 駆けつけてきてくれた武蔵坊への甘い感情は、突然の虚無感に覆いつくされて、頑なに構えていた意思とともに萎えるように縮んでしまった。 ふたりして知っていたくせに、自分を泳がせていたのか、と、反対に裏切られたような気持ちになる。 「――っつかなんや、おのれは保護者ヅラ下げおって、なに駆けつけとんねん!甘やかすんもええ加減にせえっっ!!」 一条の罵声が武蔵坊にも向けられ、武蔵坊はばつが悪そうに表情を曇らせた。 「済みません」 「お杉が……ホンマにそう言ったんか」 一条の疑問が森にふたたび向けられた。 あまりの事に集中力を欠いた森は即答できない。 「ネルトゥスを護れと、そう言ったんか訊いとるんや!!」 森の身体が、恐怖にビクンと反応した。 「はいっっ」 やはりこの艦長は怖い、と思う。 威圧的な怖さだけではなく、理屈のない力技だけのように見せかける抜け目のなさは、さすがは本部組艦隊の提督だと納得させられる。 「お杉の言いよるんは間違いあらへん。移動要塞もいずれはどっかから出てきよる。せやけど、これだけは引かれへんねや。ギャラクシアが背負うとる鎖、断ち切らなあかんよって」 遮那王が担う役割。 それは、同胞を護る盾となる事だと、一条は信じていた。 「――聖もジロも、馬鹿正直に生きよるから、俺らが面倒見いひんと誰が面倒見るんや」 半ば呆れたように吐き出す言葉は、その態度に反して優しさを見せる。 森は、いつのまにか、縋るような視線を一条に向けていた。 「ゼロもゼロや。何いつまでも仕切っとんねん。ジジイどもは大人しく隠居しとったらええねや。……戦も駆け引きも、若いモンに任せときゃええねん」 一条は、エリアゼロと関わりを持たざるを得なくなった次郎に憐情を向けていた。 事の発端は、次郎の兄にある。それでも、その願いを叶えたかった自分がいたのは紛れもない事実で、関わった以上はそれなりの責任を負う事も覚悟していた。 杉崎の兄弟を救いたい。 そんな感傷的な自分を知ってしまってから、一条には森の思いが理解できるようになっていた。 「弁慶……。ジブンはここにとどまって、ネルトゥスとこの空域を護れ。遮那王はギャラクシアを追う」 一条は武蔵坊に命じた。 例えそれが、是非を問われる事となろうとも、己の信ずる道を曲げるつもりは無い。 「俺らは本部組の用心棒や。ここで真価発揮せな、余所の組に嘲笑われるで」 また、そんな漢気を見せる……と、武蔵坊は満足そうに笑って見せた。 そして、一条に真実を問う。 「ひとつだけお伺いしてもよろしいですか?」 武蔵坊は一条を試すような視線を向けて確認した。 [*前へ][次へ#] [戻る] |