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聖戦の礎 ―復活編― (完結)
始動15





 基地に戻ってから、沢口はニルヴァーナ管理委員会オリエントの真実と、HEAVEN艦隊の現状を橘と野村に伝えた。
 そして、ヴァナヘイムへの出征を決意している事をふたりに伝え、フェニックス艦隊の指揮官と管理官たちを艦内の会議室に召集し、同時に全乗組員に対してネットワークを通じてメッセージを向けた。
 その通信ラインは、当然スノウホワイトの基地にも繋がって管理されている。しかし、沢口はそんな事で自分の行動を曲げるつもりはなかった。
 フェニックス艦隊所属艦の、艦内ディスプレイに姿を現わした沢口は、決意を持って壇上に立っていた。
 全乗員へ正面から向かい、自分が知り得た情報の全てを、包み隠さず公表する。それは、乗員たちに驚きをもたらした。
「……だからと言って、本部が我々に情報を伝える訳でもなければ、何らかの動向を指示してくる訳でもなかった。ヴァナヘイムへ出征した軍は、今や孤立していると言っても過言ではないだろう」
 沢口は沈んだ表情を見せる。
「そこにギャラクシアが打開策を持って投入される。しかし、その作戦は、決して奨励される事ではない。……だからこそ」
 言葉を詰らせる沢口の様子に集中して、乗員はその痛みに寄り添うように感情を向けた。
 そして沢口は、意を決してユニフォームを脱いだ。
 皆、何事かと驚く。
「――俺は、フェニックス艦長としてではなく、ただの沢口俊としてヴァナヘイムへ向かう」
 所属艦のエンブレムや階級章が飾られたユニフォームの上着を脱ぎ捨てて、シャツ一枚の姿になった沢口は、胸を張って宣言した。
「俺ぁ何の権限もないちっぽけな人間だし、こんな時世に黙っていられる程大人でもねえ。……責任も取れねーバカ野郎だから、悪いが全員フェニックスから降りてもらう」
 突然の変わり身に、乗員たちのみならず、覗き見していた基地職員とルミナス艦隊の乗員たちまでもが驚いて沢口に注目した。
「ただし、一緒にやんちゃしてぇバカは俺に追いて来い」
 見覚えのあるふてぶてしい態度と物言いは、ルミナス関係者に、例のちんぴらの正体を知らせる事となった。基地からの覗き見組は、驚いてディスプレイに釘付けになる。
「――ヴァナヘイムに殴りこみだ」
 ニヤリと笑う沢口に、基地全体がどよめいた。
 橘と野村はしばらく茫然としていたが、やがて顔を向け合って、視線で互いの意志を確認して、自分たちも立ち上がってユニフォームを脱ぎ捨てた。
「バカグループ、再始動だ!」
 感極まって叫んだ野村が、壇上に駆け上がって沢口に抱きついた。
 途端に、会場から女性士官たちの黄色い声がわき上がる。
 声高に宣言した野村に、橘は呆れた。
「誰がバカだ」
 物憂げな表情をしていても、シャツ姿は沢口と同様で。橘もまた同行の意志を示していた。
 こんな形で、野村に対して救いの手を差し伸べる沢口の粋に、橘は羨望すら覚える。
 この判断と、実行するための意志の強さは、自分には到底真似出来ない。
 それでも、沢口が道を示してくれるのなら、自分にも困難に立ち向かう覚悟ができる。
 腐れ正義漢と自分を罵ってきた沢口に、今度はそっくりその言葉を返してやろうと思う。
 壇上のふたりを見つめて、橘は苦笑した。
 ルミナス艦内では、サバイバル戦を事実上制覇したちんぴら三等兵の正体を見せつけられて、戦闘隊の面々が驚きの声を上げて艦内ディスプレイにかじり付いていた。





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