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聖戦の礎 ―復活編― (完結)
始動1



27.始動



 HEAVEN軌道の外側、生命生存可能域の限界域に軌道を持つ惑星ジェイル。
 その赤道上に位置する駐留基地スノウホワイトには、旗艦フェニックスを筆頭にフェニックス艦隊第一部隊と第三部隊ギャラクシア護衛艦隊が派遣され、駐留部隊であるルミナス艦隊とともに、第三勢力に対する防衛に努めていた。
 ジェイル空域からは、ここ一週間程前から敵の気配が消えていた。
 それまで防衛に尽力していたクロイツ軍ロザリアム艦隊も、突然撤退したへルヴェルト軍のイスハーク艦隊を追って、ふたたびヴァナヘイムへと向かってジェイルを去った。
 そして、それらと入れ違いにフェニックス艦隊第三部隊、旗艦ギャラクシアがジェイルに到着した。
 四ケ月前、遮那王艦隊とフェニックス艦隊による合同演習の最中、第三勢力からの突然の襲撃に遭い、ギャラクシアはブリッヂへの直撃を受けて沈黙した。
 その長い沈黙の時を経て、スタッフのそれぞれが並々ならない努力を重ねて、ギャラクシアは前線への復活に至った。

 フェニックス艦隊ジェイル駐留組は、ギャラクシアの到着に歓喜した。
 艦長杉崎次郎をはじめとするブリッヂのスタッフを含めて、ほぼ壊滅状態にあったギャラクシアの復活は、フェニックス艦隊にとっては絶対不敗の象徴のように思えた。
「ようこそジェイルへ。スノウホワイトは貴方がたを歓迎します。わたしはシング・シャンカール。ここの司令を務めています。よろしく、艦長」
 基地の港から到着ロビーに通じるゲート前で、ギャラクシアのスタッフを出迎えたシングは、艦長に対して握手の手を差し出した。
「――うちの者がお世話になっていました。お礼を申し上げます」
 差し出された手を固く握って、艦長杉崎次郎は笑顔で返した。
 若い面差しに不似合いな次郎の落ち着いた口上がシングの興味を引いて、ジェイル駐留中のフェニックスの顔役たちとは一味違うようだと感じさせる。
 それとともに、例えようのない彼の美しい佇まいに、シングは強く魅かれた。
 透明感のある白い肌が、大理石の彫刻のように光を吸収して、美しい艶を放っている。
 髪は黒く染めているようで、長い前髪で眉を隠していても、淡い琥珀色のまつげから、それが彼本来の自然な色彩であることがうかがえた。
 ヴァイオレットの瞳が、強い意志を持って輝いて、野生の獣のように美しい。
 一見細くスマートに見えるユニフォーム姿も、握手した手の感触から、鍛え上げられた身体が隠されていると予測できた。
「堅苦しい挨拶はいいだろう? みんな待っているぞ、次郎」
 ギャラクシアを降りてゲートに現われた聖が、次郎の背中を叩いて先を促した。
 次郎は聖を振り返って、穏やかな笑顔を向けて応えた。
 そして、シングに挨拶を残してから、ブリッヂのスタッフと共に到着ロビーで待っているフェニックス艦隊のクルーたちの元へと向かった。
 聖と次郎が並んで顔を合わせた一瞬、シングはふたりの事情を改めて思い出した。
 百年前の大戦で、敵機に撃墜され重傷を負った聖。奇襲をかけられ、ブリッヂで敵艦からの直撃を受けた次郎。彼らはともに、即死と判断されてもおかしくない状況から復帰を遂げている。
 ふたりはよく似ている。
 肌の色も、目元を飾る色彩もあまりに似ていて、ふたり揃うとレプリカンとは違う別な人種のようにも感じさせられる。
 美貌の総帥と謳われる聖と、彼と同じ美しさを持つ次郎は、特別な感情を通わせているようで。想像を絶する絶望の底から這い上がってきた事実から、共感する仲間意識を持つに至ったのだろうとシングは思う。彼は次郎を見守る聖とともに、ロビーに向かう頼もしい背中を見送った。
 ギャラクシアのスタッフたちがゲートを抜けて広いロビーに到着すると、まるで英雄の凱旋を迎えるような歓声が湧き上がった。
 スタッフたちはロビー中央で立ち止まって、自分たちを迎える兵たちの姿を見回し、その歓声に圧倒される。
「次郎っ!!」
 歓声の中から自分の名を呼ぶ声に気付いて、思わず振り向いた次郎は、その視界の先に駆け寄ってくる白衣の人物を見つけた。
「先生」
 今では、懐かしいとさえ感じるその人物は、フェニックスの癒しの象徴である艦医響姫洸だった。
 次郎は、暖かい感情に満たされて、駆け寄る響姫に身体を向けて、彼を迎え入れるように両手を広げた。
 その後ろからも、次々とフェニックスの仲間たちが続いて、次郎に駆け寄ってくる。
 響姫が次郎の肩に、真っ先に勢いよく抱きついた。
 彼を受け止めて、次郎は在るべき場所へと還ってきた事を実感する。





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