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聖戦の礎 ―復活編― (完結)
聖地6





 サラスヴァティー。
 赤道上に位置するその小国は、農業と牧畜を主とした産業で経済を支える、ヴァナヘイムでも自給率の高い国のひとつだ。
 森林地帯の古い林道を一台のオフロード車が進んでいた。
 それはやがて広い河川に行く手を阻まれた。
 川岸の向こうには見渡す限りの断崖が続いていて、その上流では森林に覆われた断崖の一部から、ほとばしる水しぶきが深い滝壺へと流れ落ちている。
 滝から続く河川に沿って下流へと向かうと、やがて道幅が狭くなりそれより先へは車を乗り捨てて行かなければならなかった。
 熱帯のジャングルは、常緑高木の葉の茂みによって直射日光を遮られてはいるが、むっとする湿度が体感温度を高くする。
 狭く曲がりくねった獣道は、落葉などの堆積物による路面の乱れが足元を不安定にさせる。
 そんな悪条件の中でも、足運びはバランスよく安定しており、力強く先を急ぐ。
 それは、獣のように確かな足取りだった。
 ジャングルの中は、鳥のさえずりと川のせせらぎだけが響いて、何もない静寂を思わせる。時折、霊長類の吠える声がこだました。
 先に進むにつれ、環境音が耳の奥に籠るようになった。呼吸の音すらも耳の奥に直接響いているようだ。
 獣道を辿る長時間の徒歩によって体温が上昇して、毛細血管が拡張している。その不快感は、目的地に近付いている事を実感させた。
 やがて、断崖に彫り造られた石窟寺院に辿り着き、仏塔が並ぶ礼拝堂の奥深く足を踏み入れた。
 浮き彫り彫刻を施されたその広い礼拝堂の壁面は、教典の物語を再現し、繊細で優美なオリエンタル美術の頂点を彩る。入口から奥の壁面に向かって物語は展開し、それは予言の書であり最終戦争とその後の仏陀の誕生を描いている。
 現在は巡礼者の姿はなく、その石窟寺院は密林の中にひっそりと佇んでいた。
 壁画を眺めながら奥へと進む。
 その先に隠された『オリエント』への扉を開けて、迷い無く地下深くへと石段を降りる。
 この最終戦争によって、何が生まれると言うのだろうか。
 殺戮のための殺戮。互いの勢力を殱滅するための掃討戦。
 その中に、ただ愛する者を守りたいがために、傷ついたこの世界を救わんとするものが存在することを知った。
 その意志に駆り立てられた義侠心によって、ここまでやって来た。





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