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聖戦の礎 ―復活編― (完結)
創成19





「――全貌は明らかになってはいないが、第三勢力とオリエントの癒着も暗示されている。彼らにとってクロイツは邪魔な存在だった。だからこそ、この開戦に至ったと推測される」
 オリエントと第三勢力の思惑が見える。
 聖たちは、自分たちが求められている役割を知った。
(いにしえ)のニルヴァーナを取り戻してやって欲しい」
 今回の依頼は随分と厄介な内容だ、と聖は思う。
 惑星管理委員会の方針への介入は越権にあたり、許されざる行為だと暗黙の了解が成立している。
 だからこそ、ニルヴァーナの真実が今まで隠されてきた。
 それでも尚、教皇は敢えて介入をと示唆する。
 強い意志を首脳に向けた教皇は、不意に表情を曇らせた。
「――元老は古くからのわたしの友でな。しばらく連絡が取れなんだ。気にかけてはいたのだが、まさかこんな事になっていようとは」
 教皇は、立場を忘れたような心情を垣間見せた。
 聖は、この爺いにも人並みの感情があったのかと、意外な一面に興味を引かれた。
「手段は問わない、現在のニルヴァーナを腐食させている因子を全て取り除き、清浄化させるよう助力して欲しい」
 教皇の言葉はいつもグローバルでアバウトだ。
 腐食因子を、自分たちで探し出せと言う事か……と、聖は気が重くなった。
 ニルヴァーナの清浄化とひとことで言っても、どこまで介入していいものか。
 聖はロバートと顔を向け合って、それを決めかねていた。
「それはつまり、オリエントへ干渉し、粛正せよとのご依頼ですか?」
 ロバートは、信じ難い真意を確認した。
 オリエントは聖域だ。
 不可侵な場所として、如何なる戦時下にあってもそこだけは攻撃対象にしてはならない不文律があった。
「それは、貴公らの作戦いかんによる」
「自分たちの判断に任せると?」
「左様」
 教皇は重々しく応えた。
 オリエントへの干渉など、歴史上初めての暴挙となる。
 教皇は敢えてその役割を聖に負わせようとする。
「これを総帥の独断になさるおつもりですか!? あなた方は」
 老獪な在り方に憤りを感じるロバートは、あってはならない態度で教皇に意見した。
 聖がそれを制する。
「ロブ……ありがとう」
 傍にいるロバートだけに聞こえるように囁いた聖は、ロバートの心情が嬉しかった。
 しかし、再生された生命体である聖は、エリアゼロにその運命を握られている。自分の生命を維持するにはエリアゼロの管理が必要だと、徹底的に教育されてきた。
 いまさらそれに逆らう気力もなかった。
「分かりました。場合によっては、大きな戦になるかもしれません。その時は、ニルヴァーナ出征中の艦隊を強制的に排除し、HEAVENへ帰還させる事に助力下さいますよう、お願いします」
 聖の決意が、後ろに控えていた次郎を慄然とさせた。
 聖は、出征中の本部組艦隊を、今回のミッションに巻き込むつもりはないと公言した。
 オリエントの粛正を、聖は自分ひとりの力で成し遂げようとでも言うのだろうか。
 胸が潰されるように苦しいこの感情を、聖はもっと強く感じているに違いない。
 次郎は、聖の支えになる事を決意した。
「いいだろう」
 教皇は満足そうな笑顔で了解した。
「――ああ……それと」
 そして、言い忘れていたとでも言いたげにつけ加える。
「暗殺された三名の再生は興味深い。必ず保護して原因を探って欲しい。一体何が関わって彼らを導いたのか……。これはHEAVEN管理委員会にとっても、非常に有益な情報だ」
「保護……ですか」
 ニルヴァーナ強襲の本当の目的は、もしかしたらそっちの方だったのかと疑って、聖はニヤリと笑って見せた。
「彼らは我々に捕まるような生き物ではない。下手にかかわると、このエリアゼロでさえ更地に変えられますよ」
 聖の視線は、教皇に真実を突きつける。
「彼らが本当に再生された存在であるなら、それはこの世界の脅威だ。彼らは元より、戦闘能力と作戦力は人並みはずれた力を持っていた。その彼らが、再生によって今の自分と同じ能力を身につけたとあれば……」
 聖は言葉を区切って、わざと教皇に考える時間を与えてから、結論を突きつけた。
「――惑星世界ひとつ制覇する事くらいは、簡単にやってのけるでしょう」
 聖の進言に、教皇はピクリと双眸を歪ませた。
「触らぬなんとかに祟り無しです。猛獣を飼い慣らす事は不可能だ。かと言って、檻に閉じ込めたとしても、いつそこから逃げ出すか、常に怯えて暮らす事になる。そっとしておいたほうがいい」
 聖は余計な干渉を退けた。自分たちに関与するなと強気に出る。
 自分たちの仲間がさらに増えた。それは、孤独だった聖の野心を育てるには、充分すぎる条件だ。
 それは管理委員会の脅威となる。
「しかし、彼らはまだ若い。貴方がたの老獪さにはとても敵うまい」
 そして、聖は予測できる現実を告げる。しかしそれは、真実ではないかもしれないが、委員会を安心させるには十分な効果を発揮した。
 教皇は堅い表情をふたたび和らげた。
「すぐにニルヴァーナへ向かいます。後の事は傍観していて下さると助かります」
 聖はロバートを促して席を立った。
 おのずとふたりの側近も彼らに従って、席を離れた。




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あきゅろす。
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